悪い女

6/7
前へ
/83ページ
次へ
「・・・なるほど。やっぱスタイルは良いのね。これで義隆を誘惑したの?」 「ちょっ・・・あんまり見ないで下さい。恥ずかしい」 脱衣場で躊躇いながらも梢が下着姿になると、アリスはすかさず、まじまじと見つめてくる。 「私、顔はよく可愛いって言われるけど、胸は無いからなぁ・・・そこかなぁ、あなたに負けた所」 「それは違うというか・・・第一アリスさんは私に負けてなんかないし・・・」 「・・・変に気を使わないでよ、ムカつくから。大丈夫、分かってる。義隆が大学の頃付き合ってた元カノが忘れられなかったのも、それが梢さんなのも、もう一回二人がやり直したいって思ってるのも全部分かってるから」 アリスは寂しそうにそう言うと、勢いよく服を脱いで浴室へ入って行った。梢は何も言葉を返すことが出来ないまま、アリスに続いて浴室に入る。体や頭を洗った後、二人は大きな湯船に浸かる。梢はアリスになんて声を掛けて良いか分からず、隣でしばらく黙り込んでいた。 「・・・アリスさん、なんで今回、四人で旅行したいなんて言ったんですか?」 考えに考えて、ようやく出た言葉がそれだった。アリスに一番聞きたいことを、ここで思い切ってぶつけてみたのだ。 「さぁ?あなたをいじめたかったから、かなぁ?」 「えっ・・・」 「あなたこそ、なんで来たの?めちゃくちゃ楽しくないに決まってるじゃない、こんな旅行」 「私は、その・・・」 「ああ、まぁ、義隆に聞いたんだよね?この旅行を実現させてくれたら、別れてあげるって言ったこと」 「はい、まぁ・・・」 アリスは素直に答える梢に、妙に腹が立った。出会ってからずっとずっとそうだった。こんなにスタイルが良くて綺麗なのに、どこか自信が無さそうな梢にイライラしていた。アリスから義隆を奪おうとしているくせに、何故かあちらが被害者のような顔をしている。絶対に梢の方が悪い女だと思うのに、自分の方が悪いんじゃないかと錯覚させられそうになる。 「・・・興味あったの。義隆がずっと忘れられなくて、再会してもやっぱり好きだった女に。どんなに良い女なのかなって」 「ごめんなさい、多分、期待はずれ・・・でしたよね?」 「うん。中身はね。でも肌も綺麗だし、スタイル良いから。胸も私より大きいし。義隆はあなたの体が忘れられなかったのかなって・・・納得したというか」 アリスが梢にずっと興味があったというのは、本音だった。義隆はアリスと一緒にいても、時々心ここに在らずという感じで、遠くを見つめている時があった。そんな時は忘れられない元カノを思い出しているのだろうと、薄々勘づいていた。初めて夜を過ごした時だって、アリスが半ば押し切って戸惑う義隆に抱いてもらった。 アリスは会ったこともない梢の存在をずっと感じていて、そして怯えていた。義隆をこんなにも虜にして、忘れさせない存在。一体どんな女なのだろうと、気になって気になって仕方が無かったのだ。 「あの・・・私、義隆と付き合ってた頃、今より十五キロぐらい太ってて。メガネだったし、服装も地味で。だから体が忘れられなかったのは・・・違うかなぁって」 「え?!嘘!?そんなにデブだったの?!」 「はい・・・義隆と付き合ってた頃はそんなに美容とかに興味なくて。でも義隆に振られたのが悔しくて・・・そこから努力しまくってこの容姿にたどり着きました」 恥ずかしそうに下を向く梢を見て、アリスは戸惑った。自分は梢の外見に負けたのかと思っていたからだ。ハーフで外国人寄りの自分の顔立ちよりも、スタイルが良くて華奢で和風美人な梢の方が義隆のタイプなのだと思っていた。だから義隆はあんなに忘れられなかったのだと思い、無理矢理気持ちに折り合いをつけていた。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1048人が本棚に入れています
本棚に追加