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義隆は梢に再会する前から、梢が忘れられないと悩んでいた。ということは、外見は関係ないということだろうか。アリスには分からない、強い何かで二人は繋がっているのだろうか。
正直、勝ち目が無いことぐらい、最初から分かっていた。付き合い始めた時から、義隆の心が自分にはないことに気付いていた。それでもずっと一緒にいたら、いつかこっちを向いてくれるんじゃないかと思っていた。
梢と義隆が再会するまでは。
やっぱり、この人、邪魔だな。
隣で頬を赤くしている梢を眺めながら、アリスはさらにイライラした。長い髪をあげて露わになっているうなじは、女性のアリスでも少しドキッとしてしまうほど綺麗だった。この白いうなじに義隆が顔を埋めている所を想像すると、嫌で嫌で仕方がなかった。
アリスはこれ以上梢を視界に入れたくなくて、そのまま黙って温泉を出た。
「あ、アリスさん?あの・・・」
梢は戸惑いながらも、出ていくアリスを追いかける。そのまま何も言葉を発さずに、アリスは部屋に戻って行った。
『やっぱり今日、作戦決行する』
部屋に戻るなり、アリスはスマホを手にすると、そんな風にメッセージを送った。するとすぐにスマホが震えて、
『分かった。任せて』
と、短い返信のメッセージが届いた。アリスはスマホを握りしめながら、ニヤリと黒い笑みを浮かべる。
アリスが何か企んでいるなんて全く知らない梢は、自分が何か気に触ることを言ってしまったのかと気にしていた。機嫌が悪そうだったのは最初からだったが、お風呂で話した後は何だか様子が違っていた。
「私、アリスさんが怒るようなこと、何か言っちゃったのかなぁ。お風呂上がってから、全然話してくれなくて・・・」
「・・・まぁ、アリスはちょっと素直じゃない所があるから。それに今の梢とアリスの関係じゃ、仲良くなんて難しいっていうか・・・全部俺のせいで申し訳ないんだけど・・・」
食事をしにレストランに向かう途中、廊下で義隆とばったり会ったので、こっそりアリスのことを相談してみる。
「でも悪い子じゃないんだ。ちょっと居づらいとは思うけど・・・」
「大丈夫。今度こそ、二人で一緒にいるって決めたんだもん。それぐらい頑張るよ」
「梢、本当にありがとう・・・」
義隆は湯上りで艶やかな梢に、いつも以上にドキドキしていた。本当は今すぐにでも押し倒してしまいたいぐらいだったが、そんなことするわけには行かないので、軽く手を握るだけで留めておく。
「ちょ・・・今はだめ。後でね?とりあえずご飯食べよ?」
梢は誰が見ているか分からないので、握られた手を素早く離した。本当は梢だって、すぐにでも義隆と二人きりになりたかった。でも今はダメなのだ。とりあえずこの旅行を何事もなく無事に終わりにして、義隆とアリスを別れさせなければ。二人を別れさせてから、それから・・・。
私は義隆とどうなりたいんだろう?
本当に復讐・・・したいのかな?
義隆と肩を並べて歩きながら、梢は義隆に対する気持ちを考えていた。美々から義隆は浮気をしてなかったと聞いて、だいぶ気持ちが変わってきている。真実を聞いて嬉しい気持ちもあったが、同時に理解し難い部分もある。
なぜあの時、梢を傷付けてまで無理矢理別れを選んだのか。梢を東京に行かせたかっただけならば、ちゃんと話し合いをして、遠距離恋愛をするなど他にも道はあったはずだ。
旅行から帰ったら、今度こそちゃんと義隆と話をしよう。
梢はあの頃より少し大人になった義隆の横顔を見つめながら、そう決意したのだった。
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