お姫様の作戦

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お姫様の作戦

夕食は箱根で採れた野菜をふんだんに使った懐石料理で、どれも美味しかった。アリスは相変わらず無愛想ではあったが、義隆と茂晴に話し掛けられるとポツリポツリと答えていた。きっと梢がいない、普段のアリスならば、こんな風に二人とは気兼ねなく会話をしているのだろう。 夕食が終わったら、一旦それぞれの部屋に戻った。しかしアリスと梢は話をすることもなく、お互いに黙ってテレビを見たり、携帯を見たりしていた。 「ちょっと電話してくるから」 そんな微妙な時間が数分続いた後、アリスはそう言って部屋を出ていった。アリスが部屋を出ていった後、梢はふぅとため息をつく。 一方アリスは隣の義隆と茂晴の部屋を訪れていた。どうやら電話をしてくるというのは、梢と離れて部屋を出る口実だったようだ。 「義隆、ちょっと話したいんだけど・・・良いかな?」 部屋のドアを開けてくれる義隆を、アリスは上目遣いで見つめる。部屋の奥からは、茂晴も顔を出してくる。 「あ、うん、良いけど・・・」 「じゃあちょっと、外、歩かない?中庭がライトアップされて綺麗なの」 「そうなんだ。じゃあ、ちょっと行こうか。シゲさん、俺、少し出てくる」 「うん、分かった」 義隆は部屋の奥にいる茂晴にそう言うと、上着を羽織って外に出る。アリスが部屋の奥にこっそりアイコンタクトを送ると、茂晴は静かに頷いた。 中庭は綺麗な日本庭園が広がっていて、木々が美しくライトアップされていた。二人の他にも数名の宿泊客が散策を楽しんでいる。 義隆の隣でこうやって歩けるのはこれが最後かも知れないと思うと、アリスは苦しくて息が出来なくなりそうだった。 「・・・アリスには感謝してるんだ」 庭園の真ん中に設置されているベンチに腰掛けると、低い声で義隆はしみじみと呟く。 「俺が梢のことを忘れられなくて苦しんでいる時に、傍に居てくれた。それだけでどれだけ救われたか・・・」 「そんなこと・・・私だって感謝してるよ?会社で嫌がらせされなくなったの、義隆のおかげだし」 「俺はさ、アリスを守ることでバランス取ってたんだよ。アリスが必要としてくれて、俺を求めてくれるから。それに答えることで、梢のことを考えないようにしてたんだ」 アリスは黙って義隆の話を聞きながら、分かっていたはずなのに、その残酷な現実に目眩がした。結局義隆にとってのアリスは、ただ気を紛らわす存在に過ぎなかったのだ。正直、一緒にいた二年間で、もう少し情を持ってもらえていると思っていた。 “とりあえず私と付き合ってみて、元カノを忘れる為の一歩、踏み出してみなよ。私を利用してみればいいじゃない” アリスは義隆と付き合う時に、自分の言った言葉を思い出す。確かにあの時は、利用されても良いと思っていた。どんな義隆でも受け止めて、丸ごと愛して、いつかこっちを向いてもらえればと思っていた。 結局、その“いつか‘’がやってくる前に、義隆の心はまんまと梢への元へ戻っていってしまった。 こんな結果になってしまったのは、結局自業自得なのかも知れないと、アリスは思った。義隆の弱みにつけ込むように付き合って、本当は自分だけを見て欲しかったのに、義隆に嫌われるのが怖くて素直になれなかった。
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