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「・・・梢さんのところにいかないで。私のことだけ見て。ずっと傍にいて?」
今更、遅いことは分かっていた。ここで素直になっても義隆の気持ちを動かすことなんてできないと、薄々感じていた。それでも最後に本当の気持ちを伝えたかったのだ。
「アリス、ごめん。俺・・・」
「いや!好きなの・・・」
アリスは瞳に大粒の涙を溜めながら、義隆に抱き着く。そんなアリスの背中を義隆は暫く優しくさすって、そして体を離した。
「アリスは本当は優しくて良い子だ。俺なんかと一緒にいない方が良い」
「どうして?私の何がいけないの?」
「アリスは何も悪くない。悪いとしたら俺だ。俺が・・・梢しか好きになれなかったから」
真剣な眼差しの義隆に、アリスはこれ以上何を言っても気持ちを動かすことは出来ないんだと悟った。なので、考えていた作戦を実行することにする。
「分かった、別れてあげる。だから最後に・・・最後にキスして?」
「え?今、ここで?」
「うん、今、ここで。大丈夫、今なら誰もいないから」
アリスの発言に義隆は明らかに困っていた。そしてアリスとキスをしたり、抱いたりする時はいつも少し困ったような顔をしていたことを思い出す。義隆はアリスが求めればいつもそれなりに応えてくれたが、自分からアリスを求めたことは一度も無かった。
「ごめん、できな・・・っ?!」
最後の最後まで自分を求めてくれなかった義隆。どうしてこんな男を好きなってしまったのだろうと、苦しい気持ちを全て唇に込めて、アリスから口付けをした。そして自分を好きになってくれないなら、少しでも不幸になってしまえば良いと思った。
「最後まで義隆からはしてくれないんだね」
「・・・アリス、ごめん。傷付けて本当にごめん」
「じゃあ、最後に抱き締めて。これで本当に本当に最後。それぐらいしてくれるでしょ?」
「・・・うん、分かった」
義隆はアリスの背中に手を回すと、優しく抱き締めた。こんなに自分を想ってくれて傍に居てくれたのに、最後に抱締めることぐらいしか出来なくて本当に申し訳ないと思った。
「アリス、今までありがとう。ごめんね・・・」
耳元でそう呟いて、さらに強く抱き寄せる。アリスはそんな義隆の胸で声を殺して泣いていた。
「ありゃー、なんか二人、盛り上がっちゃってる?みたいじゃない?」
そんな一部始終を遠目に見ていた梢と茂晴は、二人でその場に立ち尽くしていた。
義隆とアリスが中庭に行った後、しばらくして梢の部屋に茂晴がやってきた。そして、
「中庭がライトアップされてて綺麗なんだって。アリスと義隆は先に行ったから、俺達も行こ?」
と、誘われたのだ。茂晴と二人きりになるなと言われていたが、義隆が先に行って待っているならと、誘いに乗ってここまで来た。
しかし目に飛び込んできたのは、ベンチに仲睦まじく座る二人の姿だった。しばらくするとアリスからキスをして、今度は義隆から抱き締めた。会話はここまで聞こえないが、遠目では旅先でイチャイチャしているカップルのように見えた。
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