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「あれ?梢ちゃん、どこ行くの?」
「・・・部屋に戻ります」
アリスと義隆がキスをして抱き合っているのを見て、梢はすごく動揺していた。別れるとは言っていたものの、二人はまだ恋人同士だ。二人が抱き合ってもキスしても、梢には文句を言う権利なんてない。
キスはアリスからしていた。もしかしたら梢と同じように、急にされたのかも知れない。問題はその後だ。
義隆からアリスを抱き寄せていた。とても優しく、大切そうに抱き締めていた。もしかしたら気持ちが変わって、やっぱりアリスとの付き合いを続ける方を選んでしまうかも知れない。
梢はどうすることもでない不安に、押し潰されそうになっていた。
「・・・梢ちゃん?大丈夫?」
部屋に戻ってベッドに腰を下ろし、辛そうに下を向く梢に、茂晴が優しく声を掛ける。そして隣に座って、そっと肩に手を回す。
「だから俺にしとけって言ったのに。今からでも変更する?」
「変更しません」
「あんなの見たのに、まだ義隆が好きなの?義隆のこと信じてるの?」
「そーゆ、シゲさんこそ・・・」
梢は隣に座る茂晴の瞳をじっと見つめる。そして静かに呟く。
「・・・いいんですか?本当はアリスさんが好きなんですよね?」
その言葉に茂晴は一瞬固まる。そして動揺したように目を白黒させた。
梢はアリスと義隆がキスをしている現場を目撃した時、自分も勿論ショックだったが、同じぐらい傷付いたような顔をしている茂晴を見逃さなかった。
「何言ってるの?俺が好きなのは梢ちゃん、君だよ?」
「違います。だってシゲさん、私のこと好きって言いながらも、全然気持ちが伝わってきません。口で言ってるだけってバレバレですよ?」
「そんなこと・・・ないって言ってるだろ?」
茂晴は少し大きな声でそう言うと、梢をベッドに押し倒す。そして乱れる浴衣の紐を解き、梢の白い胸元を露わにする。
「・・・辞めて下さい。こんなこと、本当はしたくないんでしょ?」
「それ以上言うと・・・本当に犯すよ?」
茂晴はそう言いながらも、梢を押さえつける手が震えていた。そして瞳には、キラキラと輝く涙が溜まっている。
「梢?!シゲさん何して・・・」
その時だった。扉が開き、義隆とアリスが部屋に入ってきたのだ。
驚いている義隆の後ろで、笑みを浮かべているアリス。それを見た梢は、完璧にアリスに嵌められたと気付く。
「何って・・・見て分からない?梢ちゃんに誘われてイイコトしてる最中なんだけど?邪魔しないでくれない?」
「違うの、義隆っ!」
梢がそう言ったところで、
ドンッ。
鈍い音が部屋中に鳴り響いた。あまりの衝撃に梢は一瞬目をつぶった。そしてゆっくりと目を開けると、床に腫れた頬をしている茂晴が倒れていた。義隆が梢の上に覆い被さる茂晴に殴りかかったのだ。
「梢、大丈夫か?!」
「・・・義隆っ」
義隆は梢に駆け寄ると、はだけた浴衣を直してくれて、優しく抱き締めてくれる。そんな様子を、アリスは悔しそうな顔をして見ていた。
「何で俺が殴られるの?梢ちゃんから誘ってきたんだよ?」
「義隆、ちがっ・・・」
「違う、梢はそんな女じゃない」
義隆は自信たっぷりにそう言うと、茂晴を思いっきり睨んだ。
そして梢は一点の曇りもなく、自分を信じてくれている義隆が嬉しかった。さっきアリスと二人でいる現場を見てしまって、少しでも義隆の気持ちを疑ってしまった自分が恥ずかしくなる。
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