お姫様の作戦

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「・・・だってさ。アリス、もう辞めない?」 茂晴はそう言うと、腫れた頬を擦りなら立ち上がる。 「いや、だって・・・」 「どう考えても、もう無理でしょ?本当は・・・もっと早く俺が止めるべきだったのかも知れない。ごめんな」 アリスは茂晴の言葉を聞くと、その場に泣き崩れてしまった。痛々しいアリスの姿に、梢は何とも言えない気持ちになった。 「義隆、梢ちゃん、ごめん。アリスと義隆がキスしてる所を梢ちゃんに見せたのも、俺と梢ちゃんがベッドにいる所を義隆に見せたのも、全部作戦だったんだ」 泣き崩れるアリスの頭をそっと撫でながら、茂晴は申し訳なさそうにした。茂晴はアリスが好きだから、アリスが幸せになれるならと協力した・・・という所だろうか。 「アリスは・・・そこまでして二人の仲を引き裂きたかった。それぐらい、義隆のことが好きだったんだ」 「ごめん、俺が梢とアリスの間でフラフラしてたから・・・シゲさんにも、迷惑かけて」 「全然迷惑なんかじゃないよ。俺は・・・アリスが幸せになれるなら、何でも良いんだ」 そう言うと茂晴は、自分の腕の中にいるアリスを愛おしそうに見つめた。 「義隆、お前と友達になったのも、本当はアリスに頼まれたからなんだ」 「え?!どういうこと・・・だよ」 「実は・・・俺とアリスは家が隣同士の幼なじみでさ。アリスに頼まれたんだよ。自分の彼氏と友達になって欲しいって。それで・・・何か他の女の影とか、変化があったら教えて欲しいって」 義隆はその話を聞いて、愕然とした。そして茂晴との出会いを思い出す。 義隆が通っていた雅達の店で、最初に話をした。店長に義隆と気が合いそうな人がいるからと、紹介されたのだ。 確かにあの頃、アリスを店に何度か連れていったことがあったし、義隆がよく通っている常連ということも知っていた。その情報をアリスが茂晴に流したとすれば、自分も店の常連になって義隆に近くことは簡単に出来る。 「義隆と友達になるためにあの店に通って、店長と仲良くなった。義隆の趣味とか興味あるこもアリスから聞いてさ。それであたかも気が合うように見せたかけて・・・近づいたんだ」 最近梢のことでぎくしゃくしてしまっていたが、義隆は茂晴のことを親友の一人だと思っていた。一緒にいると楽しいし、気兼ねなく会話も出来る。一緒にお酒を飲んで、くだらない話をするのが最高に楽しかった。そんな友情が、本当はアリスによって仕組まれていたものだったなんて、思ってもみなかった。 「そんな・・・俺、シゲさんのこと、本当の友達だと・・・親友だって思ってたのに」 「悪いな、義隆。俺はお前よりも梢ちゃんよりも、一番アリスが大切なんだ。アリスが望むものなら何でも叶えてやりたい」 「ごめん、茂晴・・・もう、もういいから」 アリスは力なくそう言うと、涙を拭った。
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