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「アリス・・・ちゃんと全部話そうか。俺が義隆の友達になった経緯も、何でこの旅行に来ようと思ったのかも」
「でも・・・」
「いつも素直に話さないから、分かって貰えないんだよ?今回は・・・ちゃんと素直になろう?」
「分かった・・・」
アリスはよっぽど茂晴を信頼しているのだろう。梢に対しては頑なで何も話してくれなかったが、茂晴の言うことには素直に従っている。
義隆もこんな風に弱々しくて、素直なアリスを初めて見た気がした。義隆の知っているアリスはどこかツンツンしていて、強い言葉で自分を必死に守っているような感じだった。しかし今は茂晴が確実に守ってくれるという安心感があるからなのか、ただの小さな女の子のように見えた。
「茂晴は・・・複雑な家庭で育った私をいつも心配してくれて、頼れるお兄ちゃんだったの。だから私・・・義隆とのことも不安だったから、ずっと相談してて、それで・・・」
「俺と友達になって、様子を見てもらってたってこと?」
「・・・そう。本当にごめんなさい」
義隆は思ってもみなかった事実に、途方に暮れているようだった。
アリスと茂晴を初めて会わせた時。二人は確かに初めましてと挨拶していた。人と打ち解けることが苦手なアリスが、茂晴には自然に接しているようで安心したのをよく覚えている。それは茂晴がめちゃくちゃ良い奴で、義隆の親友だからアリスが心を開いたと思っていた。しかしそれは全て、仕組まれた関係だったのだ。
「今日、この旅行を計画したのは、確かめたかったの。本当に私と義隆はもうダメなのか、梢さんは義隆に相応しいのか」
「だからわざと・・・キスしてる所とか見せて気持ちを揺さぶってきたってことですか?」
「そうよ。その程度で壊れるような半端な気持ちなら、義隆を渡したくないって思ったの」
「でもさっきの義隆を見て、もう二人に入る隙がない事が分かったんだよな」
「うん・・・悔しいけど」
アリスは下を向くと、また少し涙ぐむ。そんなアリスを茂晴は大事そうに見つめて、再び優しく頭を撫でた。確かにこの二人の空気感は、幼い妹としっかり者の兄という感じだった。しかしそこには、茂晴の密かな恋心が隠れている。茂晴はアリスとのこの関係を壊すのが怖くて、自分の想いを押し殺して、幼なじみのお兄ちゃんとしてアリスを守り続けているのだった。
義隆はうなだれて、力なく壁にもたれ掛かる。色々と思うところがあるのだろう。梢は何て声を掛けて良いのか分からず、そんな義隆の手を握ることしか出来なかった。
「義隆、本当にごめんなさい。私、どこかでずっと不安だったの。義隆はいつか、誰か他の人に取られてしまうんじゃないかって。だからって二年近くも騙してたのは良くなかったよね・・・」
「いや、俺の方こそ・・・結局、アリスを不安にさせてただけで、二年も一緒にいたのに何もしてあげられなかった。アリスがシゲさんに頼んだのは、そんな俺の態度にも原因があったんだ。ごめんな」
義隆は傷付いた顔をしていたが、最後までアリスと茂晴を責めることはなかった。そんなお人好しで優しい所が、義隆らしいと梢は思った。
こうして義隆とアリスは、二年間の交際に終止符を打ったのだった。
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