呪縛と執着

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「アリスは父親がいなくなった後、母親とあまり関係が上手くいってなくて。アリスの母親は、どんどん父親に容姿が似てくるアリスを見るのが辛かったみたいで。キツく当たってしまうことも多かった」 「お母さんと上手くいってないのは、俺も少し聞いたことがある。だからこの子は強い言葉を吐くことで、自分のことを守ってるのかなって思ってた」 「そうなんだ。アリスはそうすることでしか、自分を守ることが出来なかった。・・・それを義隆は分かってくれてるみたいだったから、アリスを任せられるって思って。だからできるだけ上手くいくように手助けしたくてさ。ごめんな・・・」 梢は二人のやり取りを黙って聞いていた。そして不謹慎だが、アリスを羨ましいと思ってしまった。 確かに家庭環境に恵まれない部分はあったかも知れない。梢が想像も出来ないような、辛いことが沢山あったのも分かる。でもアリスには、いつも傍に理解してくれる人がいた。自分の気持ちを押し殺してまで、アリスの幸せを純粋に考える茂晴のような存在は、そうそう出逢えるものでは無い。 それに比べて梢はここ数年、一度離れていってしまった元彼にもう一度こちらを向いて欲しくて、ひたすら外見を磨くことしか出来なかった。 美々と再会することで義隆が浮気をしていない事は分かったが、それでも一度、別れの道を選んだのは紛れもない事実だ。梢は美々の話を聞いてから、好き同士だったのにどうして自分達は激しく傷付け合って別れなければいけなかったのかと、どこかで腑に落ちてない部分があった。アリスと茂晴の絆を見て、そのモヤモヤしていたものが、より一層の浮き彫りになってしまったのだ。 「でも・・・梢ちゃんには感謝してるんだよ?」 「え?」 「義隆とアリスを救ってくれた」 「・・・救った?邪魔した・・・じゃなくてですか?」 梢は思っても見なかったことを言われたので、キョトンとする。義隆を精一杯誘惑してアリスと別れされようとはしたが、救った覚えなんてなかった。むしろ計画通りに事を進めるとなると、義隆のことはこれからさらに地獄に突き落とすことになる。 「義隆はアリスのことを心から好きになれなかった。心のどこかで、梢ちゃんを忘れられなかったからだ。それは何年経っても変わらなかったと思う。そんな状態で、同情だけで付き合ってても、アリスも義隆も幸せになんてなれなかったと思うんだ」 「私が邪魔することで・・・二人の幸せになれない付き合いを止められたってことですか?」 「うん。正直、俺じゃどうすることも出来なかったからね。アリスも変に義隆に執着して、歯止め効かなくなってたし。アリスを解放してくれて・・・ありがとう」 そうやって笑う茂晴を見て、よっぽどアリスのことが大切なんだなと、梢は思った。茂晴は常に、アリスがどうすれば一番幸せになれるのか考えている。自分の気持ちを後回しにしてまで。本当に深い愛とは、こういうことを言うのかも知れないと、梢は思った。 そして茂晴はその後も少し飲んだ後、 「じゃあ、戻るわ。二人とも邪魔してごめんな」 と、昼間よりも晴れ晴れした顔で部屋へ戻って行った。
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