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茂晴が部屋に戻ると、寝ていたはずのアリスが目を覚ましていて、心配そうに駆け寄ってきた。
「・・・どこに行ってたの?」
「ああ、ごめんね。眠れなかったからちょっと外に」
するとアリスは茂晴のシャツの裾をぎゅっと握りしめて、泣きそうな顔をする。
「急にいなくならないで。怖いじゃない」
「ごめんね。大丈夫だよ、俺はどこにも行かないから」
「茂晴までいなくなったら・・・私・・・」
不安そうな顔をするアリスを、茂晴は自分の胸に抱き寄せる。そして安心させるように、頭を優しく撫でた。
「大丈夫、大丈夫だよ。俺はずっとそばにいる。絶対にいなくならない」
「本当に?」
「本当だよ」
「ずっとずっとそばにいてくれるの?」
「うん、ずっとずっとそばにいるよ」
アリスはその言葉を聞いてやっと安心したようで、茂晴の腰に手を回して抱き締め返してくる。その姿はまるで、小さな子どものようだった。
アリスは父親が急にいなくなったあの夜から、人との別れに敏感になった。大切な人になればなるほど、いつか居なくなってしまうのではないかと、不安になってしまうのだ。
だからこそ義隆を失いたくない一心で、付き合っていた二年間は義隆の周りの女性達に、片っ端から暴言を吐いていた。
茂晴はそれがよく分かっているので、いつも優しくずっとそばにいると言い続けている。
そうやって二人はお互いに、ずっと依存してきたのだ。
「アリスは本当に悪い女だな」
自分の気持ちに気付いてるのか気付いていないのか、無防備に甘えてくるアリス。不安を埋めるために利用されていると分かっていながらも、茂晴はアリスのそばから離れることができない。それくらい、アリスのことを愛しているのだ。
「ん?何か言った?」
「ううん、何も。さぁ、寝ようか」
自分の隣で何の警戒心もなく、瞳を閉じて眠るアリスを見ながら、茂晴はこれからのことを色々と考える。
義隆にアリスを任せられないとしたら、やっぱり自分が一人の男として守っていくべきなのだろうか。
俺こそ、アリスに執着してるじゃん。
アリスは義隆に執着してると指摘しながらも、自分の方がもっと酷く執着していることに、むしろ笑えてくる。
この関係を崩したら、アリスはどんな顔をするだろうか。泣いてしまうだろうか。
この唇に自分の唇を重ねたら、世界はどんな風に変わるだろうか。
茂晴はアリスの傷が癒えたら、少しずつ自分の気持ちのままに動いてみようと心に決めた。
もうそろそろ腹を括るべきなんだと自分に言い聞かせて、アリスの隣で眠りについた。
一方梢は茂晴が帰った後、急に義隆と二人きりになって、どうして良いのか分からなくなっていた。それは義隆も同じだったようで、少し緊張した様子で梢の隣に腰掛ける。
「今日は色々疲れたね」
「でも、これでやっと・・・問題が全部解決した。今度こそ、胸を張って梢の傍にいれる」
義隆はそう言うと、梢の右手を優しく握ってくる。
どこからか義隆よりもずっと素敵な王子様が現れて、この手を取って、さらってくれないかな。
そしたら、義隆なんて忘れられるのにな。
いつかそんなことを考えていたことを思い出す。でも結局この手を取ってさらってくれる王子様なんて現れなくて、再び手を握ってくれたのは義隆だった。
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