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「・・・とりあえずキスしていいかな?」
「わざわざ聞かないで。恥ずかしいよ」
梢は顔を真っ赤にして、目線を下に落す。長いまつ毛をパチパチさせる伏し目がちな表情が、義隆には妙に色っぽく見えた。両手で梢の顔を優しく捕まえると、そのまま唇を重ねる。呼吸が乱れる程、何度も何度もキスをした。離れていた時間を必死で埋めるかのように、お互いの唇を求めた。
梢は眩暈がするくらい、義隆との甘い時間に酔っていた。途中から理性が保てなくなって、何が何だか分からなくなる。
そんな時、梢の朦朧としていた意識が、首元に感じた金属の重みと冷たさで急にハッキリした。
「え?義隆これって・・・?」
梢はゆっくり唇を離すと、自分の首元を見つめる。
するとそこには、キラキラと輝くダイアモンドのネックレスがあった。どうやら義隆が、キスをしながらサプライズで梢に付けてくれたようだった。梢は嬉しいのと、驚いたので、義隆を少し潤んだ瞳で見つめる。
「本当はこの旅行が終わってからあげようと思ったんだけどさ」
「・・・ありがとう、すごく嬉しい」
「改めて梢。好きです、心から。結婚を前提に俺と付き合ってください。これは俺の誓いの証」
しかし梢は、突然の出来事で言葉を失ってしまう。
いつもいつもそうだった。義隆は梢が思っているよりもずっと梢のことを考えていて、先を見据えている。五年前、梢とわざと別れた時も同じだ。梢よりも梢のことを考えてくれていた。
しかしそんな先を考えている義隆に、目の前の事で精一杯になってしまう梢は、時々付いていけない。
とりあえずアリスと別れさせて、もう一度自分に惚れさせることしか考えていていなかった梢にとって、「結婚を前提」という言葉は正直荷が重い言葉だった。
「ごめん、急でビックリしたよね?でも俺はアリスと別れるって決めてから、梢との結婚をずっと考えてたんだ。正直五年前も考えてたことあるし・・・」
「五年前、結婚まで考えてくれたのに・・・どうして別れるなんて言ったの?」
「えっと・・・それは・・・」
「ごめん、知ってるの。義隆があの時、本当は浮気してないって。この前会ったんだよね、仕事で。松坂美々さんに」
梢がそう呟くと、義隆は明らかに顔色を変えた。甘い雰囲気が、一気に気まずくなっていく。しかし梢はそれで良いと思った。
五年前のことをきちんとクリアにしないと、二人は本当の意味で前に進めないと考えていたのだ。そしてこの答え次第で、本当に復讐をするかしないか決めるつもりだった。
「あの時は、梢が俺と一緒に小田原へ行くんじゃなくて、東京の今の会社に入った方が絶対に良いって思った。ずっと近くで見てたから、梢が俺なんかよりも頭が良くて、才能があること、よく分かってたから」
「・・・にしても、わざとあんなことしてまで別れること無かったんじゃない?遠距離恋愛するとかさ、色々他にも道はあったと思う」
梢の言葉に、義隆は少し考え込むようにして、黙ってしまった。そこから言葉を必死に探して、恐る恐る本音を口にする。
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