呪縛と執着

5/6
前へ
/83ページ
次へ
「あの時・・・急に怖くなったんだ。ずっと俺の方が梢の前を歩いてると思ってた。でも、梢が難関って言われているS社に受かって。気付いたんだよ、本当は俺よりも梢の方がずっとずっと先を歩いてるって。何ていうか、レベルが違うんだなって」 「そんなこと、そんなことなかったのに・・・私の方こそ、いつも義隆のお荷物にならないように必死で・・・」 梢は当時のことを思い出す。二人の付き合いについて、悪く言われるのは決まって梢の方だった。義隆はあんなブスと付き合ってて趣味が悪いとか、釣り合ってないとか、そんな陰口をしょっちゅう耳にした。それでも義隆が、そのままの梢が好きだから、周りは気にしなくて良いって言ってくれていたので、聞こえないフリをしてきた。 だから義隆が自分に対して劣等感を抱いているなんて、これっぽっちも思っていなかったのだ。 「梢はいつも自分のこと過小評価しすぎなんだよ。就活もさ、自信無さそうだったから最初は上手くいかなかっただけ。学校の成績は良かったし、ゼミでもいつも発想が斬新ですごいなって思ってた。教授からも友達からも信頼されてたし・・・自慢の彼女だったんだよ」 義隆がそんな風に思っていたなんて、五年経って初めて知った。義隆が自分と一緒に居てくれるのは、趣味が合って楽しいからぐらいにしか思っていなかった。こうやって考えてみると、あの頃の自分達はまだまだ子供で、そして言葉が圧倒的に足りてなかったように思える。 「私の方が・・・自慢の彼氏だったよ?いつもカッコ良くて優しい彼氏が居て良いねって、みんなに言われたもん」 「俺は結局、上辺だけだからさ。中身は臆病で意気地無しのダメなやつだから。だからそんな俺と居たらさ、梢のことダメにしちゃう気がしたんだよ、それで怖くなって」 「・・・別れるように仕向けた?」 「・・・ごめん。松坂さんには梢のために別れるってカッコ良いこと言って協力してもらったけど・・・本当は俺が梢と付き合ってく自信がなくなって、別れた方がいいなって思って。俺が引きずっちゃうから、別れるなら思いっきり嫌われたくて・・・あんな嘘ついた」 「なるほどね・・・」 「再会してから何度か本当のこと、言おうと思ったんだけど・・・やっぱりこんなのカッコ悪くて、今まで言えなかった。本当に・・・ごめん」 全てを白状した義隆は、瞳から一筋の涙を流し、辛そうに下を向いた。梢は義隆に、こんなに弱い部分があったなんて知らなかった。 梢の中の義隆はいつも堂々としていて、カッコ良くて、学校でもみんなの人気者で。ダメなところは、朝が苦手でよく遅刻することぐらいしか思い付かなくて。でもそんなところも可愛いなって思えて、大好きだった。 「呆れた・・・よね?嫌いになった?」 少し掠れた声でそんな風に聞いてくる義隆は、梢が好きだった義隆とは少し違っている気がした。きっと今までの義隆は、自分の弱い部分を必死に梢には見せないようにしてきたのだろう。 本当の意味で今初めて二人は、きちんとお互いと向き合っていた。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1048人が本棚に入れています
本棚に追加