それぞれの道に

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「ごめんね、待った?」 二人がソワソワして待っているのを知ってか知らずか、アリスは約束の時間より少し遅れてやって来た。久々に見るアリスは相変わらずお人形のように可愛らしい顔をしていたが、雰囲気はだいぶ変わったように思えた。 「え?!アリス、どうしたの?めちゃくちゃ太った?」 そんな姿を見て、梢が何か言うより先に、雅が口を開いた。そんな雅の様子を見て、アリスはケラケラと笑い始める。 「そんなわけないじゃない。よく見てよ、妊娠だよ、妊娠。お腹に赤ちゃんがいるの」 アリスは幸せそうにそう言うと、両手でお腹のあたりをさすって見せた。確かに華奢なアリスには不釣り合いに、お腹がポコっと膨らんでいた。 「ちょっと、待って!嘘!待って!誰の子?!まさか、義隆・・・」 「ちょっと雅さん、落ち着いて!」 「なんで梢ちゃんはそんなに落ち着いてられるの?!だって、妊娠ってそんな急に!」 雅は突然のことで驚いてパニックになっていたが、梢は柔らかくなったアリスの表情を見てすぐに分かった。 「お腹の子のパパは・・・シゲさん・・・ですよね?」 「さすが、梢さん。うん、そうなの、茂晴と結婚することになって。まさかのデキ婚」 そうやって笑うアリスは、義隆と付き合っていた時には考えられない程、優しい顔をしていた。きっと今幸せで、茂晴にたくさんの愛情をもらっているのだろう。 「そうなんですね。おめでとうございます」 「シゲさんとデキ婚?!え!なんていうか・・・さすがシゲさん、手が早いというか」 それからアリスは恥ずかしそうに、茂晴との馴れ初めを話し始めた。 義隆と別れてからしばらくは引きずっていて、アリスは毎日のように一人で泣いていた。そんなアリスに茂晴は毎日連絡してきて、可能な限り会いに来てくれて、励ましてくれたという。 「ねぇ、そろそろ、俺にするっていうのはどう?」 義隆と別れてから二ヶ月が経った頃。茂晴は勇気を出してアリスにそんな提案をしてきた。 「俺は本当は・・・ずっとアリスのこと好きだった。きっと、子どもの頃から。もう他の誰にも取られたくない。俺がアリスのこと守りたい」 「・・・やっと言ってくれた。待ってたんだよ?」 アリスがそう言うと、茂晴は力いっぱい抱き締めてきて、もう絶対に離さないと泣きながら呟いてきた。 本当はアリスも心のどこかで、茂晴がそんな風に言ってくれるのを待っていた。義隆とダメになった時、懲りずにずっと傍にいてくれた茂晴に、いつの間にか強く惹かれていた。やっぱり自分には茂晴しかいないのかも知れないと、思い始めていたところだった。 「本当はね、私も子どもの頃、茂晴が好きだったの。でも高校生の頃、茂晴が彼女作ってきて。その時、ああ自分は茂晴にとってそういう対象じゃないんだなって思って。だから恋心は封印して、幼なじみとしてずっと傍にいてもらおうって思ってたんだけどね」 「え?!なんか、シゲさんも確か同じようなこと言ってたような・・・」 「そうなの。どっかで何か間違えちゃってたんだよね、私達。梢さんと義隆と一緒」
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