それぞれの道に

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本当はお互い思い合っているのに、すれ違ってしまう。それがどんなに辛くて苦しいことか、梢にはよく分かった。相手のことを思いやって、嫌われたくないあまり、素直になれない。しかし絡まった糸を解くのは大変だけど、その糸が解けた時、さらに強い絆が生まれる。だから急激に愛が深まって、アリスと茂晴が新しい命を授かったのも頷けた。 「でも義隆を好きだったのは嘘じゃないし、あの時は本当に真剣だった。好きになったのも後悔してないの・・・義隆とのことがあったから、茂晴が大切な存在って気付けたし」 「きっと無駄なことなんて無いんだと思います。私もあの頃は辛かったけど、一度義隆と別れて良かったかもって思ってて。あの頃別れないでズルズル付き合ってたら、お互いにダメになってた気もするし」 「ま、結果オーライってことか!良かったじゃん、二人とも今、幸せそうで」 雅はそんな風に場をまとめると、ニコッと笑って見せた。とても数分前にあんなに緊張していたとは思えないほど、リラックスした良い笑顔だった。 「だからこそ、二人には一回ちゃんと謝りたくて。義隆と付き合ってた時、キツい事、沢山言っちゃってごめんなさい・・・今日はこれが言いたくて、呼び出したの」 申し訳なさそうに下を向くアリスは、数ヶ月前とはまるで別人のようだった。付き合う相手によって、こんなに変わるのかと驚いてしまう。雅も同じようなことを考えていたらしく、思わず二人で顔を見合わせてしまった。 「いや、なんていうか・・・あの時は私もアリスさんにとって酷い女だったし。彼氏、取るなんて・・・ね?だから私もごめんなさい」 「私も少し、態度悪かったところあったと思う、ごめんね、アリス」 「・・・ありがとう、二人とも良い人だね。茂晴が言ってた通りだった。良かった、素直に謝れて。スッキリした」 アリスは今までにないくらい、綺麗な笑顔を見せてくれた。梢のイメージの中のアリスは、いつも不機嫌そうで怒っていた。それをこんな笑顔に変えてしまうなんて、茂晴はどんな魔法を使ったのだろうと不思議になる位だった。それとも新しく宿った小さな命が、アリスを穏やかに変えたのだろうか。 「赤ちゃんはいつ産まれるんですか?アリスさんの子だからめちゃくちゃ可愛いんだろうなぁ」 「今、ちょうど六ヶ月だから、あと四ヶ月後かな。産まれたら、義隆と会いに来てね」 「はい、絶対に行きます!」 「六ヶ月ってことは、わりと義隆と別れてからすぐに手を出したってことか。シゲさんやるね!シゲさん、めちゃくちゃ溺愛してきそうだからなぁ」 雅がそう呟くと、アリスは顔を真っ赤にして、 「今で我慢してた反動?なのかな?正直、結構、溺愛されてると思う。でもそれが幸せというか・・・」 と、こっそり教えてくれた。 そんなアリスは幼い少女のように無垢な表情をしていて、とても可愛らしかった。 「アリス、終わった?帰るよ」 それからしばらく、女子同士の話に花を咲かせていると、幸せそうな雰囲気を纏った茂晴が店にやって来た。よく見ると茂晴の薬指には、アリスとお揃いのシルバーのリングが光っている。それを見た梢は、二人は本当に結婚するのだと、やっと確かな実感が沸いてきたのだった。 「シゲさん、おめでとうございます」 「ありがとう。梢ちゃんと義隆のおかげだよ」 そうやって笑う茂晴はすっかりパパの顔をしていて、数ヶ月前よりずっとたくましくなったように見えた。 「悪いけど、まさかの一番乗りさせてもらうね?次は雅かなー?梢ちゃんかなー?」 そんな風に冗談を言いながら、茂晴は幸せそうにアリスと帰って行った。大切そうにアリスの身体を気遣って、手を繋いでいる姿は何だかとても眩しかった。
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