それぞれの道に

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アリスと茂晴の幸せそうな姿を見て、梢は安心したと同時に、自分の気持ちに少し違和感みたいなものが生まれてしまっていた。 薬指に輝く指輪を見て。二人が幸せそうに歩く姿を見て。何だかそれがとても別の世界の出来事のように思えてしまったのだ。 「次は梢ちゃんと義隆かな?」 「え?!」 「結婚、するつもりなんでしょ?」 雅にそんな風に聞かれて、即答出来ない自分に驚いてしまった。 「さぁ・・・どうかな?雅さん達の方が早いかもよ?」 と、咄嗟に答えを濁してその場を乗り切った。 二回目に付き合って欲しいと言われた時、義隆は結婚を前提にと言ってくれた。梢の胸に光るダイヤのネックレスは、その誓いの証だ。 それどころか義隆は、大学の頃から結婚を考えていると言っていた。就活が上手くいってない時は、正直嬉しかったし、そんな未来が自分にあると思うだけでウキウキして幸せだった。 しかし今は、あの頃のような幸せな気持ちにはなれない自分がいた。 今は結婚よりも・・・もう少し仕事がしたいな。 それが、梢の本音だった。 もちろん、義隆のことを好きな気持ちは変わらないし、今、義隆と付き合っていてとても幸せだ。 しかしそれと同じくらい、仕事も楽しくなってきている。 梢は初めて開発のリーダーを務めたルージュが大ヒットし、また新製品の開発を任されていた。前回のルージュはモデルを務めてくれた美々も好評で、新製品のモデルも美々にしてはどうかという案も出ている。 もっともっと女性が綺麗になれる化粧品を作って、沢山の女性に希望を与えたい。かつて自分が綺麗になることで色々変われたように。いつの間にか梢は、そんな風に大きな夢を持つようになっていた。 「アリスどうだった?元気そうだった?」 あの後、雅と少しお茶をしてから、お店の近くにある義隆のアパートに寄った。義隆はいつもと変わらない様子で、グレーのスエット姿で、最近ハマっているというオンラインゲームをしていた。 「うん、元気そうだったよ。あと、幸せそうだった」 「今、六ヶ月だっけ。本当に良かったよな」 「え?!義隆、知ってたの?」 「あ、うん。ちょこちょこ、シゲさんとは連絡取ってるから」 「・・・なんで教えてくれなかったの?」 「いや、なんか、アリスが梢には自分から報告したいって言ってるって聞いてたから」 「ふーん、そっか」 義隆は茂晴がアリスに言われて友達になったことに一度は傷付いていたようだったが、アリスのこと抜きでも気が合うことは変わらなかったようで、今でもたまに連絡を取っている。それに自分のせいで深く傷付いたアリスの状態も気になっていて、いつもさり気なく様子を聞いていた。 今はアリスが自分と付き合っていた頃よりずっと幸せそうで、安堵していた。そしてアリスに辛い思いをさせてしまった分、自分は梢を幸せにしたいと思っていた。 「アリスさんが、赤ちゃん産まれたら、義隆と見においでって言ってたよ。絶対可愛いよね、アリスさんとシゲさんの子ども」 「・・・俺達も作る?」 「え?」 「子ども」 義隆は低い声で呟くと、戸惑う梢の唇を少し強引に塞いだ。
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