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「いつから違っちゃったのかな・・・価値観。学生の頃は考えてることとか、したいこととか、大体一緒だったのにな」
義隆の家から自分のアパートに戻ると、梢は真っ先にそう言ってため息をついた。
「バッチリお泊まりしてきた人にそんなこと言われても、説得力ないけど。朝までラブラブだったんじゃないの?」
「いや、上手くいってないとかじゃないんだけどさ。なんか結婚に対する考えが・・・違うっていうか」
「そんなの違って当たり前なんじゃない?男と女なんだから」
帰ってきて早々、リビングで暗い顔をする妹に、楓はあくびをしながら答える。ここのところ梢は、ずっと忘れられなかった義隆と再び付き合うことが出来て、とても幸せそうだった。こんな風に悩んでいるのは、久々に見た気がした。
「・・・そんなものなのかな?」
「そんなもんだって。学生の頃はさ、同じ学校に通って、同じような勉強して、同じような友達と一緒にいたじゃない?そりゃ、価値観も似てるよ。でも今は、仕事も関わる人も違うんだもん、違う価値観になって当たり前」
「・・・確かに、そうかも」
楓は普段適当そうに見えるが、たまにびっくりするぐらいまともなことを言ってくる。今までそんな姉の助言に、何度も救われてきた。
梢はそもそも義隆と、趣味や考えが似ている所から恋に落ちた。義隆が何が好きか大体分かるし、義隆が好きなものは梢も好きだった。
そんな二人だったからこそ、二度目に付き合い始めて、少しずつ違ってきている価値観に戸惑っていた。義隆は最近オンラインゲームにハマっているが、梢はゲームなんて一切分からないし、梢はメイクやファッションを熱心に研究しているが、義隆はファッションにそこまで興味はない。上手くいってない訳では無かったが、梢はそんな微妙なズレが実はずっと気になっていた。しかし姉の一言で、そのズレは当たり前なんだと気付いて何だかホッとした。
「ピッタリ全部一緒なんてあるわけないんだから、違う部分も楽しめば良いんじゃない?」
「・・・うん、ありがとう。そうだよね!違いも楽しむ」
スッキリした表情をした妹に、楓は安堵した。そして話すなら今かも知れないと、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「それでさ・・・結婚のことで悩んでる所、悪いんだけど・・・」
「え?何?!なんか怖い・・・」
「こちら側は話し合いが上手くいきまして・・・その、結婚することになったの、永倉さんと」
「え!?マジで!?おめでとう。良かったね!」
「ありがとう。それで、私が結婚するってことはさ、この家出ていくってことなんだけど・・・」
「ああ・・・そうか。どうしよう。一人暮らしかなぁ」
姉の結婚は素直に嬉しかった。静かに丁寧に愛を育んでいる姿をずっと見ていたし、何となく楓はこの人と結婚しそうだなとも思っていた。
しかしずっと一緒に暮らしてきて、何でも相談に乗ってくれる姉が近くに居なくなると思うと、何とも言えない虚無感にも襲われた。
「義隆と住めばいいんじゃない?これを機に」
「え?!いや、だって・・・私はまだ結婚とか、考えられなくて・・・」
「同棲したからってすぐに結婚しなくても良いじゃない?」
「そうかも知れないけど・・・」
「梢、私と一緒に住んでたから、今更一人暮らしになるなんて寂しいと思うよ?いずれ結婚しようって思ってるなら、もう義隆と住んじゃえばいいのに」
姉の幸せな報告と、とんでもない提案を同時に聞いて、梢は頭の中がパニックになっていた。
義隆と一緒に住む・・・?
いつかはそうなれば良いなと思ってはいたけど、まさかこんなに急に考えさせられることになるとは思っていなかった。どうすれば良いのか答えを出せないまま、梢はリビングのソファーに寝っ転がると、いつの間にかそのまま寝てしまっていた。
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