運命のタイミング

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運命のタイミング

純白の白いドレスに包まれて、愛おしい人の隣に並んで歩く。人生で最高の瞬間を迎えた楓は、間違いなく今までで一番綺麗だった。姉妹の結婚は、友人のとはまた違った感動がある。父と母は嬉しそうに笑ったり、泣いたり忙しくて、何よりずっと幸せそうだった。 「結婚ってさ、今まで自分がしたいか、したくないかだけだと思ってたんだけど。それだけじゃないんだね」 そんな幸せな結婚式の帰り道。梢は感慨深そうに呟く。隣にはスーツでバッチリ決めた義隆が歩いている。 楓は自分の結婚式に、義隆も招待したいと言ってきた。梢は親戚の反応とか、親への紹介とか色々と面倒なので嫌だったが、最後は楓に押し切られてしまった。 当日、義隆は持ち前のコミュニケーション力の高さで、あっという間に親族のみんなを虜にしてしまった。梢の隣に座って式に参加した義隆は、全てが終わる頃には、梢なんかよりずっと親族に馴染んでいた。 「ん?楓さんが取られちゃって寂しくなっちゃった」 「まぁ、寂しいのは寂しいけど。いや、結婚ってさ、自分だけじゃなくて、家族の問題でもあるんだなって思って。お父さんとお母さん、めちゃくちゃ嬉しそうで。結婚って親孝行にもなるんだなぁ・・・って」 「一番は本人達が幸せかどうかだと思うけど。でも周りの人も幸せな気持ちにできるのは、良いよね」 そう言ってニコニコと笑う義隆の手を、梢はぎゅっと握った。そんな梢の掌を義隆は優しく受け入れると、そのまま手を繋ぎ、家までの道を肩を並べて歩いた。 「ただいまー」 二人は真っ暗な部屋に明かりを付けると、揃って靴を脱ぐ。玄関の靴箱の上には、二人で撮った写真が何枚か飾られている。 「お風呂って洗ってあったっけ?」 「あ、俺、出る前に洗ったよ。すぐ沸かす?」 「うわ、天才!ありがとう!すぐ沸かす!一日中ヒールだったから、足がクタクタで」 義隆はお風呂のボタンを押しながら、 「今日は一緒に入ろうか?」 なんて冗談っぽく言ってみる。いつもなら、明日仕事だからとか、今日は疲れてるからとか、梢は理由を付けて断ってくる。しかし今日の梢は、ちょっと様子が違った。 「・・・考えとく」 耳を真っ赤にしながらそう言い残して、クローゼットのある寝室へ着替えに行ってしまった。どうやら姉の結婚式を見て、何かしらの心境の変化があったようだった。 義隆と梢は、三ヶ月程前からこの賃貸マンションで同棲を始めた。姉が結婚して一緒に暮らせなくなるので、梢は一度、一人暮らしを考えていた。一人暮らし用のアパートを何件か内見して、新しく買う家具なんかも見繕っていた。 そんな梢が、義隆の家で内見して迷っていた二件のアパートの書類を見比べてた時、不意に義隆が言った。 「ねぇ、一緒に暮らさない?」 その言葉に梢は最初、固まってしまった。それは一度、梢が言おうと思って言えなかった言葉だったからだ。 姉に「義隆と暮らせばいい」と言われて、色々考えた。確かにしょっちゅう義隆の家に行っているし、今すぐとはいかないがいずれは結婚するつもりだ。このタイミングで一緒に暮らすのもアリかも知れないと思った。 しかし梢は、少し前に義隆のプロポーズを断っていた。まだ結婚は考えられないと言ったくせに、姉が結婚して引越さないといけないから一緒に暮らして欲しいなんて、虫が良すぎる気がした。だから一人で暮らすことを選んだのだ。 「え?いいの?」 「何だよ、その反応。いいに決まってるだろ」 「だってすぐに結婚は・・・考えられないよ?」 「同棲したらすぐに結婚しないといけないなんて、決まりないだろ。いや、単純にどうせ近くに住んで行き来するんだから、だったら一緒に住んだ方が楽かなって」 そう言って照れ臭そうに笑っていた義隆の顔を、梢はきっとずっと忘れないだろうと思った。
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