運命のタイミング

3/4
1044人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
薬指にキラキラとダイヤモンドのリングが輝く。梢は自分の指を何度も空に掲げて、指輪を眺めていた。 あれから二人は、早速次の休みに指輪を選びに行った。指輪が出来上がると、義隆は律儀に夜景の見えるレストランを予約してくれて、そこで指輪を渡してくれた。想像していたのと少し違ってしまったが、それが自分達らしくて良いと梢は思っていた。 「なかなか良い指輪くれたじゃん、義隆」 ビールを片手に、聖奈はまじまじと梢の左手を見つめる。 「まぁ、最終的に決めたのは私だけどね」 梢は少し恥ずかしくなりながらも、自分の顔の横に左手を寄せて見せる。 今日は梢と義隆の婚約祝いということで、大学時代の友達数名で集まっていた。親友の聖奈と紗子が二人の結婚を凄く喜んでくれて、今日の会を主催してくれたのだ。 「にしても、良かったよ。私達の結婚式で二人が再会しちゃうの、実は心配してたんだよね。良い方に転がって、本当に良かった」 そう言うと、紗子は少し涙ぐむ。その姿を見て、聖奈ももらい泣きし始めた。 「もー、二人とも泣かないでよぉ」 「だってずっと梢が頑張ってるの見てたから、嬉しくて」 「梢には義隆しか居ないんじゃないかって思ってたから・・・本当に良かった」 そんな風に二人が言うものだから、梢もつられて涙目になってしまう。こんな風に心から喜んでくれる友達が居て、梢は本当に幸せだと思った。 ほんの些細なすれ違いと大人になり切れなかったせいで、別れを選んでしまった学生時代。 でも今は、それも無駄じゃなかったと思える。あの時辛い想いをしたから、梢は全力で頑張りたいと思える仕事に出逢えた。綺麗になることで女性は希望が持てるということを、知ることが出来た。今はそれを少しでも後押し出来るようなコスメを作りたいという、夢もできた。 そして義隆にまた再会して、恋をすることもできた。 最初は好きだからこそ憎くて、思いっきり傷付けてやりたくて仕方がなかった。でも今となってはそんなことしないで本当に良かったと思っている。少し臆病で不器用な所がある二人だからこそ、助け合ってこれからも生きていけると感じられたのだ。 「結局、あれだね。恋は、タイミング、フィーリング、ハプニング」 「うわ、懐かしい。そういえば聖奈、大学の頃、ずっとそれ言ってたよね」 「そう、これ、本当にバカに出来ないからね?義隆と梢はさ、フィーリングは元々合ってたでしょ、ハプニングも・・・まぁ、色々乗り越えてたじゃん?で、二人に足りなかったのは、タイミングだけだったわけよ」 「わかった!そのタイミングが、私の結婚式でバッチリ合ったってことか!」 「そう、その通り!しかも義隆も東京に移動になってた・・・と!もうバッチリだったわけ」 少し酔っ払った聖奈と紗子が二人で盛り上がっているのを横で聞きながら、梢はなるほどと関心してしまった。確かに色々、タイミングは揃っていたかも知れない。 「でね、その三つが全部揃うことをなんて言うか知ってる?」 「え?なんだろ?そこまではあの頃言ってなかったよね?梢分かる?」 「うーん、なんだろ?」 「二人ともまだまだだなぁ。この三つがバッチリ揃うことを、運命って言います!つまり、義隆と梢は、運命の人だったってこと」 「おおー!なるほど」 「うん、なんか深いね」 得意気に話す聖奈はもうすっかり酔っ払っていて、そんな聖奈に同調する梢と紗子もかなり出来上がっていた。 でもこんな風に何も考えずに、新しい門出を喜んでもらえる夜も悪くないと梢は思った。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!