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再会
きっと、大丈夫。あの頃の私とは全然違う。
鏡の中に映る自分を見つめて、芦屋梢は心の中で唱えた。
そして女性らしい細くて華奢な手を、ピンクベージュのドレスに通す。キラキラとしたラメのついたストッキングを、スラリと伸びた足に履かせる。着替えた自分の姿を鏡で再び確認して、
大丈夫、きっと今の私は綺麗。
と、再び自分に言い聞かせる。
梢は今日をずっと楽しみにしていた。そしてそれと同じぐらい、今日が来るのがとても怖かった。昨日の夜は正直、あまり眠れなかった。
今日は大学の友人、紗子と拓郎の結婚式。二人とも大学の時のゼミ仲間で、よく知った間柄だ。
そしてそれと同時に、今日は彼と五年ぶりの再会をする日でもある。
いつもより少し濃い目のパーティー仕様のメイクを仕上げて、梢は決心をしたように玄関のドアを開けた。コツコツと高いヒールを鳴らしながら、一歩一歩、式場へと向かう。今にも緊張で胸が張り裂けそうだ。
最寄り駅に着き、いつも通勤の時に乗る電車と反対側の電車に乗る。電車にゆっくりと揺られながら、梢は彼のことを思い出していた。
彼、叶義隆と初めて言葉を交わしたのは、大学三年の時だった。
三年の春から始まるゼミで一緒になり、同じ研究グループになったのがキッカケだった。
それまでは何度か同じ授業を取ったことはあったが、同じ学科の学生として何となく顔を知っている程度で、さほど接点も無かった。
義隆はどちらかというと、学科の中で派手な方のグループにいた。バトミントンサークルに入っていて、暇さえあれば友達とどこかに遊びに行くような、青春を満喫しているようなタイプ。顔もなかなかのイケメンで男子にも女子にも人気があった。
それに対して梢は、学科の中であまり目立たない、地味なグループにいた。当時の梢は自分に自信がなく、いつも人の顔色を伺ってばかりいて、自分の意見なんてほとんど言えないような子だったし、外見もぽっちゃりしていてメガネ女子。恋愛とは縁のない子だった。
そんな二人が同じ班で研究を進めることになった。はじめのうちは、研究で必要なこと以外は話さなかったし、お互いとくに意識もしていなかった。梢は義隆を自分と住む世界の全く違う人だと認識し、嫌いではないが少し苦手なタイプだと思っていた。
しばらくして他のゼミ生とそれなりに打ち解けて、何と無く授業以外のことも話すようになっても、梢と義隆の距離が変わることはなかった。
二人の距離に変化があったのは、夏休み前の 、ほんの偶然がキッカケだった。
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