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 西嶋は今まで流されるように生きてきた、という自覚があった。  家族の繋がりの希薄な家に生まれて育ち、それを悲観することも恨むこともなく十代を過ごした。両親が離婚することになり、どちらについていくかと問われた時もどちらでもいいと返し、親の言うままに母親とともに家を出た。実際、校区さえ変わらなければ別にどちらでもよかった。友人たちとの関係の方が西嶋にとっては重要だったのだ。  以来、父親とも弟とも会っておらずその後の消息も知らない。高校を卒業し家を出るときにアパートの住所は教えたけれど、二回目の転居の際には母親に連絡はしなかった。  そんな「家」だったから、学校や外にいる方が楽しかった。夏休みも幼なじみや友人たちと毎日のように出かけていた。中学生の頃には流行っていた漫画の影響でバスケ部に入ってそれなりに部活に励んだけれど、先輩との関係が面倒になってあっさり辞めてしまった。その程度だったのだと思う。  部活を辞めてからは毎日遊び歩いた。勉強はしなかったから県内でも最低の高校へ進学し、親の干渉もなかったからいよいよ家には帰らなくなった。昔からのツレがいて、恋人ができて、それなりに楽しかった。  卒業後すぐに家を出ると一人暮らしを始め、学生の頃ほど派手ではないけれど仲間らと遊んだり飲みに行ったりした。バイトの先輩に紹介されたダイニングバーでバーテンダーの真似事をしながらその日暮しの生活を続けた。  今までの人生を振り返ってもたったそれだけ。話してもおもしろいことなど何もない、と西嶋は思う。
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