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「まあ仕方ないよ。私、皆みたいに元気じゃないし」
黄昏れたように遠くを見る女の子に、遊は深くは訊けず、小説をそっと閉じるだけだった。
遊は小説のタイトルを見つめた。
そこには『透過交換』とある。彼女の胸が透けていたことと何か関係があるのだろう。遊はそう考え、隣の女の子の方に顔を向けた。
「これ、持って帰ってもいい? 借りパクは絶対にしないから」
「え? もしかして読み合いっこしてくれるの?」
「まあ、うん。面白そうだから」
「じゃあ感想聞かせて」
女の子は輝くような笑みを浮かべた。夕陽が傾き、射し込む光量の減った森の中でも、女の子の笑顔は明るかった。
ドキッと心臓がひと鳴きし、遊の頬は真っ赤に染まる。同時に、あることを確信するのだった。
「……読んだら感想を言うよ」
「約束だよ! じゃあ私帰るね」
女の子は立ち上がり遊を見下ろし、遊は女の子を見上げた。
お尻についた落ち葉を二度三度叩いて、鞄を手に取る女の子。
「またここで読み合いっこしようね。この時間にいつもいるから、絶対来てっ。落ち着くけど、1人はやっぱ寂しいから」
困ったように眉を曲げ、口元だけ笑ってみせた。
それから遊歩道のある方向へと歩き出した。少し冷たい風に煽られ靡く黒髪。微かに香る甘い匂い。そんな中、遊は女の子の後ろ姿をずっと眺めるのだった。
やがて姿が見えなくなると、遊も立ち上がった。それからお尻の落ち葉を叩き、鞄を持って女の子とは逆方向へと歩いて行く。
借りた小説を見て、ふと思う。
読み切れるかな……。
漫画なら数分で読める。ただ小説はどれくらいかかるか未知数だった。
森を抜けると、空から夕陽は消え、あと少しすれば夜が訪れるといった時間帯だった。
森を背に、遊は帰路につく。
手に持った小説が少し薄いのは、遊は気にしない。読めればいいのだから。
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