浅草六区の劇場で

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 平田成典は一応若手の範疇に入る役者だ。そうは言っても、高校生も在籍している事務所の中、とりたててフレッシュというわけではない。  年齢的には中堅に入るが、芝居のプログラムの席次は、その他大勢の段の最後尾から4・5人目という、微妙に「ともしび」的な立ち位置だ。 「家族や親戚って言ってもなあ……」  もう楽屋の皆も帰っただろう。そう踏んだ彼は20分後、楽屋で着替え軽く掃除をしたあと、警備のおっちゃんに鍵を返した。 「まだ残ってたの。他の子達と一緒にマネージャーさんも帰っちゃったよ」 「ああ、いいっす。分かってます。自分用事があって残ってたんで」  それじゃ失礼します。  平田成典は軽く頭を下げて警備員に挨拶をした。 「今日も例の店でバイト? 給料出たから、俺も後で行くかもしんねえわ」 「お、いいっすね。お待ちしてまーす」  平田に東京の知り合いはいない。実家は長野県の伊那谷だし、役者になるために大学を中退した息子を快く思っていない。彼自身もそれはよく分かっている。  だから家の敷居はとてつもなく高く、もう3年は帰っていないし、電話もメールもラインもしていない。  たまに、事前連絡なく、家で作った米や味噌や野菜が送りつけられるが、公演準備や稽古でくたくたになって荷ほどきを怠けていると、母手作りのタッパーに入ったおかずや保存食・野菜は腐ってしまう。そんな状況なのだ。  バイト先の仲間と言っても、自分は一番下っ端だし、初めのうちこそ義理で一番安いチケットを買ってきてくれたが、そう何度もは頼めない。
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