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第十五話 資産運用会社始動編 その1
昼前に起きて朝ご飯を食べて音楽を聴きながら勉強し、夕方頃になれば洗濯物等の多少の家事をしたり、ヨウツーアーの動画撮影や編集をしながらママの帰宅を待つ。その後、夜ご飯前に一緒にヨガをして、ご飯を食べたら一旦ゴロゴロ休憩し、動く気になったら一緒に風呂に入って一緒に寝る。それが俺の平日の生活リズムである。
土日祝は主に映画とエッチで潰れる荒んだ生活だが楽なので満足している。やはり、就職とか生涯年収を含む金の話を親から延々と迫られない現世は素晴らしい。
そう思ってた時期もありましたよ。ええ、そうです。本日、ママが大量の花束を抱えて帰って来る前までは。
「はあああああああ!?会社辞めてきた!?」
多分、今の俺は大口を開けて目ん玉ひん剥いた表情だと思う。そのくらい、ママの行動は驚きというか、最早、常軌を逸脱している。
「ママね、あーくんが作った会社で本格的に働こうと思ったの」
「いや、なんで!?」
「ずっとおうちで一緒に居られる方が良いなって思ったの」
「はああああああ???」
「それに、あーくんの欲しいものを買うには、金融商品取引法とか日本証券業協会の規則に縛られない身になるしかないじゃない」
あっ...確かに、俺のミスだ。
金融関連の社員は金融商品取引法や日本証券業協会の規則によって有価証券等の取引に禁止や規制がかけられているから、気軽に株とか国債とかビットコイン買える訳ないよね。
「ママもちゃんと考えて辞めたから、それ明日の朝、説明するね!あーくんに会って欲しい人も居るから」
*******************
翌朝、ママが今後俺があの時の慰謝料で設立した会社の発展に貢献する意思と能力のある人材を我が家に招待したらしい。我が家のインターフォンが鳴った。ママが玄関を開けると、ママの元秘書さん達がぞろぞろと入ってきた。
「小町本部長、御招き頂き光栄です」
聞いたことのあるキリッとした声がした。うん、なんとなくそう思ったよ。
「押小路さんお久しぶりです。あと、もう母は本部長ではなく副社長?ですよ」
「ふふふっ、話はママが会社辞める前から全部通してあるから説明は大丈夫よ。あーくんが一緒に仕事しても良いってサインさえしてくれれば問題無いわ〜」
「俺としては別にママが仕事し易いなら良いと思うしサインするけど……これって我が家の資産運用の為の株式会社だよね?もしかして、投信の準備会社とかにするつもり?絶対ベンチャーキャピタルみたいなハイリスクな事は嫌だよ?」
何故、俺が準備会社と言ったかは理由がある。証券投資信託及び証券投資法人に関する法律関連の事で半端じゃない量の規定がなされており現実的に投資法人の設立は困難であるからだ。例えば、第67条第4項に定められている証券投資法人の最低純資産額の項目を満たすには、5000万の資本金が、最低(・・)条件である。それに、提出しなければならない報告書が膨大で、規定の量が半端じゃない。
「投信ねぇ……ママはあーくんが言ってた仮想通貨や為替を専門的に扱おうと思ってたのだけど、リスク分散の為にそういうのもしても良いかしら」
ん?なんか投信の意味が噛み合って無い希ガス……俺は商品としての意味では言っていなんだが、まぁいいか。
「まぁ、俺は細かい事は分かんないけど、兎に角、リスク管理を徹底してくれたら何でも良いんだよ」
安定安心安全安寧を約束する様にママや秘書さん達に言い聞かせた俺は様々な書類にサインをした後、訳の分からない次元の話についていけなくなり、速やかに自室に戻った。
後から聞いた話だが、ママは退職金やへそくりを会社の資金に投入したらしい。
秘書さん達も退職金等はママと同じではあるが、更に、皆、今住んでいる家を売って、我が家の近くの家に3人でシェアハウスしながら生活するとか言い出したので、いきなり億単位の資金を調達してきたみたい。
リスクが余りにも高過ぎて本気で心配していたんだが、もし、これで失敗しても超絶優秀だから再就職先には困らないんだってさ。
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昨日、リスク分散という点において秘書さん達も含め、皆で話し合った結果、海外・国内株式や為替、暗号資産等の攻めをメインにしつつ、投資信託や債権、リート等のリスク分散や安定性が高いもので生活に必要最低限度の額をほぼ確実に得るスタイルで行くことに決まった。
安定安全安心安寧を推す俺は、
「相場の急変で処理落ちして追証だらけの借金塗れになりたくないし、路頭に迷いたくないの!それに、最低限度の生活保障があると思えばちょっとぐらいミスしたってそんなに気負わなくて済むでしょ?ストレスが1番ヒューマンエラー起こすんだからそれ回避しようとするのは当たり前!」
とだけ発言し、後は、よく分からんしずっと黙っていた。
「それでね、あーくんは投資やっぱりやらないの?」
「う〜ん。マネーリテラシーも知識も皆無だから下手に弄るよりママに任せた方が効率的だからそれでいいかなぁ。
やるとしても国内株で、しかも、毎日ずっと張り付いているのはしんどいからスイングトレードとかになるかなぁ。
そもそも、本業としてはヨウツーアー……嗚呼、所謂、動画実況者?みたいな…
と、兎に角、これからスマホ業界自体が急成長するし、付属する形でスマホゲーム業界も半端無く伸びるはずだから、少なくとも俺とか、俺よりもっと若い子達にウケるのは確実だし、絶対やりたい職業であるから、ヨウツーアーはね、やりたいの!」
「……ママはあ〜くんがやりたいこと何でもすればいいと思うよ。ずっとずぅぅううっっと応援してる!」
……あ、なんか、熱く語りすぎてやっちったっぽい。この空気感辛い。部屋に引きこもろう。
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バタンと自室の扉を閉めた俺は思わずため息を付く。
「はぁ……やっちまったなぁ……」
暫くの間、ボーっと放心状態でいれたお陰が、思考を切り替える事が出来た。
アレだけ大見得を切ったんだもの。ヨウツーアーとしてマジで成果を出さねば。
「とはいえ、再生回数……ふぁッ!?」
あ、あれ?俺の見間違えなのか?
4、5000という数字がズラっと並び、チラホラ1.1万回再生等の予想外の数字が見えるんだが。
思わずコメント欄も見てみる。
先ずは自信作である突っ込んでみた系の動画だ。
「……あれ、おかしいな。渾身のネタであるのにも関わらず、ぶっちゃけあんまり面白くないけど可愛いから許す的な発言が多いゾ。つか、突っ込んでみた系シリーズの平均再生回数は3000回下回るとかなんかおかしくないか?」
因みに、1番再生回数が多いのは、科学の物質量の計算についての解説動画であった。
勉強系の動画に関しては、ママの部屋からパチッてきたホワイトボードに板書しながら説明するだけの映像をそのまま投稿しているスタイルで、編集加工も取り直しも無しの一発勝負のグダグダ動画だ。
一応、転生前に家庭教師や塾講師のアルバイト経験があるからとは言え、そこまでクオリティに自信があるとは言えないものだが……
「ん?このコメ荒れてるな?どうしたんや?」
『学校の友達からワンセで教えて貰ってあ〜くん先生様に出会いました。
ウチの学校のクソババア教師の1億万倍分かり易いし、何より、あ〜くん先生が教えてくれるからヤル気が出る。ホンマにウチの学校来て教えて欲しい。ってか、家庭教師に成って(爆)』
『家庭教師は望み過ぎやろ』
『禿同。実際問題、カチコチになって顔を合わせられる自信が無いし。それより、撮影後に脱ぎ捨てられた服が欲しい』
『それ自体、私等みたいな馬鹿には絶対無理な世界。高望み過ぎ。滅茶苦茶頭良くなって鬼稼がないとRealじゃ御出逢いすら出来ない』
『家庭教師云々は兎も角、あ〜くん先生ってまだ15歳なのに天才じゃね?高2の私ですら訳分からんのにここまで分かり易く解説してくれるの神過ぎ。もうヤル気しか出ない笑(意味深)』
『因みに、私の愛しのあ〜くん先生様は簿記検定対策講座や行政書士試験対策講座とかも動画で出されている大天才なのだゾ』
『お前のあ〜くん先生という箇所には訂正させて頂くが、15歳で法律分かってるのは本気で桁外れの大天才。
私商業高校通っててあ〜くん先生の動画で勉強してるから、次の簿記試験、絶対一緒に合格したい!』
『試験頑張れ。コメ主が落ちない限り、一緒に合格という夢が叶うゾ』
『動画作り過ぎて体調不良とかいう万が一という事も有るし、あ〜くん先生を信じてはいるが、やっぱりファンとして合格発表してる姿を見て安心したいところはある。何となく予想だけど、簿記と行政書士の合格発表は淡々としてると思う』
『あ〜くん先生としては、行政書士は社労士の受験資格くらいにしか考えてないからね。それに、資格はあくまで趣味らしいよ?あ〜くん先生の母親が鬼天才らしいからその影響を受けてとか言ってたね。
合格発表のテンションランキング予想なら、
以前、動画で、
「司法書士は無理ゲーですし、そもそも、僕は民法でも家族法の方が好きなんですよね。司法書士取るくらいなら相続診断士を取ります。」
って言ってから、合格発表の中では相続診断士が1番テンション高めで報告してそう(笑)』
以上が主なコメントの抜粋だ。
「………………おいおいおいおい、嘘だろ!?マジかよ!世間のニーズと俺が力を入れていた部分が全く違っだと!?」
bokeroに突っ込んでみた系は絶対ウケると思ったんだけどなぁ。まぁ良いや。今、それを気付けたんだし。
「よし!路線変更だ!これからは勉強動画をガチで出す!」
…………と、意気込んでみたのは良いものの、毎日投稿は続けているし、ホワイトボードとかテキストとかは揃ってるんだよなぁ。何を工夫すればいいんだろう?
「あっ、ワンセだ!ワンセで俺と似たように勉強動画を出している人と絡んでコラボしたり、動画を紹介して貰えば良いんだ」
コラボという1つの気付きを得ればアイディアは更に浮かんでくる。
撮影の時に着ている服装について、読モとかのオシャレ系の投稿を引用しつつ真似して紹介したり、他のヨウツーアー達にワンセ上でDM送って相互紹介したりすれば良いんだ。
相互紹介については、大人相手だと話の進むペースが遅かったり、フォロワー数とかの格差でなんかややこしそうだったりするし、高校生ヨウツーアーに絞ってアタックをかけるか。
よし!早速、行動しよう。ママ達の前でヨウツーアーと名乗って恥ずかしくない様に成るんだ。
少し上機嫌になれた俺は部屋を出た。
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暫くすると、ママと秘書さん達の会議が終わったみたいで、秘書さん達が帰りだし、ママがご飯の支度を始めた。
ふいにエプロン姿のママがキッチンから飛び出してくると、
「あっ!そうだ、あーくん。明後日にね、どうしてもお出かけして貰いたい所があるんだけど…いい?」
と聞いてきた。
詳しく話を聞くと、投資家からバンバン融資を受ける為には俺も行った方が良いらしい。
「あれ?金融業とか風俗関連業とかは創業融資出来ないんじゃなかったっけ?」
「ふふっ、確かに政策金融公庫とかの公的なものからの融資が禁止されてるけれど、私人間の取引なら良いのよ?そもそも、営業活動の一環として投資家達に株主になって貰う為なんだから業務内容に含まれるわ」
「あっ、そうか。そうだね。創業融資といえばで、政策金融公庫としか思い付かなかった。
その投資家さん達はママの知り合いなんでしょ?ママが行った方が話も進むんじゃないの?」
「うぅ…でも、チャーミングな男性のあーくんが居てくれるだけで結構融通効いたりするの」
嗚呼、察し。難しい話をし始めたら背景オブジェにしかならないと思けど。
「分かったよ。一緒に行く!」
「ありがとう!うふふっ。今すぐじゃなくて、明後日よ?」
えっ、あぁ、そうか。アポとか段取りしないといけないもんな。
ママには資金調達や国への手続きから全てをお任せするしかないな。超優秀な秘書さん達がフル稼働で人選や書類作成している姿をチラ見しつつ、混ざれない自分の無力さを感じてしまう。
はぁ、マヂでこの世界の男女のすれ違いって半端無さそう。
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