第十話 会社デート編 その4

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第十話 会社デート編 その4

いきなりママが犯罪者呼ばわりされた事で大いに驚いたが、俺は駐車場で会った女性に丁寧に挨拶及び自己紹介をし、誤解を解く事に成功した。 彼女はどうやらママの第一秘書らしい。名前は押小路椿。彼女もまた、ママの秘書を務めているに相応しいほどの才女であり、よくママのお悩み相談に乗ってくれているという。発言はヤバかったが結構良い人なのかもしれない。それに俺よりもママについてよく知っているっぽかったからな。色々聞きたいことが有る。 「小町本部長、先程は大変失礼致しました」 「…私何も悪い事してないのにテンパっちゃったじゃない。もうっ」 ママがぷくぅっと膨れている。後で慰めてねというアピールだろう。にしても、ママさんよ、甘えん坊な姿をさらけ出しちゃってますけど。押小路さん見てはりまっせ? 「ん?別に良いのよ。押小路は私達の関係には気付いてるし、これまでにもママの色んな素顔を見られちゃってるから」 俺はよくねぇよと、思いながら溜息を吐く。因みにこの世界の常識的には、近親相姦をしていても、「あっそう、ふーん」くらいのノリらしい。俺としては転送前の記憶の影響により、禁忌的なイメージが強かったんだがな。その分、ヤる時に背徳感を感じて良いゾ。あくまでそれは二人期の場合に限るがな。知らない人に見られると余計恥ずかしい。 「早く行こう」 俺はママの手を引っ張ってオフィスへと向かった。押小路さんも後ろから付いて来ている。そうか、よく考えたら職場の部屋まで同じなのか。 二度エレベーターを乗り継ぎ、ちょうど30階で降りる。当たり前の事だがやはり高いな。ずらりとパソコンが並んだ大きな部屋を何度も通り抜けると、大きな木製の扉の前でママは立ち止まった。扉の右上には『本部長室』と書かれているプラスチックのプレートがあった。 「此処、ママのお部屋よ。さぁ、入って入って」 ママが扉を開けて、俺を招き入れる。後ろから押小路さんも付いてきた。部屋の中は結構綺麗で、机の上も整理整頓がなされている。書類は恐らく種類別に分けられて積まれており、文房具は全てペン立ての中に、パソコンの画面の淵に貼られた付箋は皆真っすぐ平行に張り直されている。多分コレ秘書さん達(・)がやっているんだろうな。 嗚呼、そうそう。ママのお部屋には机と椅子が四つあったからな。 「ねぇ、ママって第三秘書まで居るの?」 と、俺が聞くとママは驚いた表情をしながら答えつつ、鞄の中から資料を出したり、パソコン立ち上げてメールチェックをしている。 「えっ?ええ、そうよ。もうすぐしたら来るんじゃないかしら」 いや別にそんな驚かなくたっていいんだけど。数を数えただけだからさ。 ってか、秘書さん来るのか。どんな感じの人だろうと思っていると、押小路さんが顔写真付きの報告書らしき書類をサッと渡してくれた。 流石、本職の秘書。欲しい資料をさっと出してくれるのはやはりプロの技だぜ。 写真にはママと押小路さんと後二人写っている。どうやら残りの二人が今来ていない秘書さんらしい。タンバルモリ的なカットのボブをしたハーフ顔の綺麗な女性と、ふわふわとしたロングカールの人懐っこそうな表情の大人カワイイ系の女性だ。記事の内容は...くそ、英語と意味不明な数列で埋まってる。取り敢えず、皆、頭良くて綺麗なんだという事だけは分かった。 「ありがとうございます」 といって顔写真付き資料を返すと、 「コートもお預かりいたします」 と、手を出された。はっと思い、俺は自分の姿を確認する。あっちゃー、室内なのにまだ着てたよ。 「よし、緊急の予定はないみたいだから、あーくんは今からママと一緒に会社を色々見ましょうね」 と、ママが言った事により残りの秘書さん達には会えなくなったのは残念だが仕方あるまい。俺達は押小路さんに見送られながら会社見学の旅に出発した。エレベーターで1階まで降りると玄関ホールに高校生たちの集団を見つけた。200人くらいだろうか。何列にもなって地べたで三角座りをしながら通行妨害を決め込んでいる。 「いい?お家で言った通り、あーくんは鷹司高校の列の一番後ろに居て着いていくのよ」 と、ママは俺に言って高校生の集団を指さした。 「うん。その方が説明聞けるもんね」 大体こういう社会科見学ってそこの学校の卒業生が案内をしたりして、始まりと終わり頃にそこそこ偉い人が本日は来てくださってありがとうございました的な事とか、皆さんとまた会える日を楽しみに待っています的な挨拶で締めくくられるよね。どうせ次の日には感想文とか書かされる奴だけど。 俺はママの指さす場所に行く。幸いな事に近くには高校の教師はおらず俺を注意する者は居なかったので、バレない様に堂々と三角座りをする。周りの高校生達は互いにあいつナニモンや?的な視線を行き交しているが、誰も話しかけてこない。そういえば、ママが家で言ってたな。この社会科見学では、態度が悪かったらママの会社への内定が取り消されるとかいう噂があるみたいだよって。 案の定、高校生達は誰も話しかけて来ず、目の前の誰も居ない壇上にお偉いさんが上がって来るのを待っていた。俺も待っていた。次の瞬間、壇上に立ってスピーチしだしたのがママであった為、超絶驚いたのは内緒だ。 「私立鷹司高校の皆さん、ごきげんよう。私は……」 途中までママの話を頑張って聞いていたのだが、鷹司財閥の話がとても複雑でそして長いので飽きた。とっても暇である。 この世界に来て初めて見た俺と同じくらいの年齢の子達を観察する。ぶっちゃけ、俺の精神年齢的にはこの子達よりもママの秘書さん達の方が近い気がするのだが、そこらへんはほっておいてだな。 ふむ、ギャルがおらんな。じゃなかった、男が結構居るな。大体、6人に1人くらいの割合でいる。考えてみればこの世界の男女比は1:3なんだからこれでも少ない方なのか? よく見れば男の周りにいる女の子達の左手の薬指に指輪が嵌められている率が高い。流石にこの年齢じゃ婚約指輪なのかな。つか、指輪は嵌めてる子って滅茶苦茶生真面目そうな黒髪ストレートロングな清楚系の見た目ばかりだな。やっぱ私立で内部進学率の高いお嬢様学校の姫君達は清らかなんだな。 ママ、まだ話してんだな。長いなぁ。 チラリとロビーで受付をやっている…あ、ダンディーなおじさんだ。働く男性は珍しいな。私立鷹司高校の就職率は0%と聞いたことが有るから、あのおじさんは卒業生ではないのかな。にしても、鷹司高校で同級生同士が学内恋愛とか、同級生ハーレムをした場合、三年経ったら男は全員結婚、女の子は全員進学が当たり前の学校だから、互いの生活環境や生活リズムも違い過ぎてなんだか不幸な気がするな。 男は家に引きこもってゲームするのが普通らしいけど、女の子は大学で習った勉強とか大学生活もあるんだから話題が噛み合わなさそうだ。それに女の子が就職決まるまで妊娠すると人生計画狂ってヤバいから性交渉も無いんでしょ。男が積極的に女の子のお話を聞くタイプなら全然大丈夫そうだけど、現実的に滅多に居らんからな?3年後の破局率高そう。 「……です。私からは以上です」 あ、ようやくママの話が終わった。 「これより鷹司高校の卒業生による引率が行われます。皆さん班になって行動しましょう」 あ~、班活動か。転送前は「班になりなさい」と言われても、どちみちボッチになる事が分かっていたので全く動かずに案の定ボッチになっていた記憶しかない。どうせ、最後には教師命令によりどこかの班に強制加入させられるしな。 「あーくんっ、ママの班に入ってね!」 お?俺も高校生達に混ざるのかと思いきや、 「ふふふっ、あーくんには特別に本部長様を独占出来る権利をあげるわ」 …世界変われど、 「ボッチ班なんかーいっ!」
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