第十一話 会社デート編 その5

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第十一話 会社デート編 その5

ぶっちゃけ、職場見学はつまらなかった。だってさ、此処オフィスなんだよ?ネズミーランドとかユニヴァみたいにアトラクションとかエンタメ性のある場所じゃないし、確かに綺麗なOLさんは結構居たけど、仕事している風景にパフォーマンス性なんかないし、皆気難しそうな顔とか無表情だったからね。でも、ママが偶に家で話す仕事の話に対する理解が深まったと思う。今まではずっと家に居たから、どうしても実物を見てなかったり、雰囲気を知らなかったりして、曖昧にしか理解出来なかった部分があった。それが今回の職場見学で解消されたので今後は会話についていけると思う。 そして何よりの収穫が、ママの家では見られない表情だったり声とかが知れた事だ。自分が愛せる女性の色んな面を知れるって相手への理解が深まる事なんだからとっても素晴らしい事だと思う。家での甘えん坊な可愛いではなくて、大人カワイイが見られて嬉しかったね。 オフィスビル丸々一棟をある程度かいつまんでとはいえかなり練り歩きまくったので疲れた俺はママの部屋である本部長室で休憩している。因みに、ママは鷹司高校の社会科見学の締めの挨拶をしに再び玄関ホールへ行っている。 「お、お疲れ様です。お坊ちゃま」 「あ、有難う御座います」 そう言って俺に…お茶か?いや、紅茶か。兎に角、冷たい飲み物を差し出してくれたのは、ママの第3秘書である葉室 美怜さん。はむろ みれい と、読むらしい。写真で見た時に人懐っこそうな印象を受けたが、確かにその通りで、ふわふわとしたロングカールとちょっと心配そうな表情が犬っぽい。 逆に猫っぽいのが第2秘書である竹内 乃愛。押小路さん曰く、父がスペイン人、母が日本人のハーフらしく、スペインでも日本でもどちらでも違和感が無いようにと、ご両親が「Noa」と「乃愛」がかけられた名前らしい。艶のある茶…というか、ブラウンって感じの髪とハーフらしい高い鼻、そして、押小路さんが来歴を暴露する度に上下に動く眉。不機嫌そうな表情ですら絵に成る様な美人顔。素が滅茶苦茶綺麗なんだよなぁ。笑顔見たいな。きっと天使降臨級なんだろうな。 「スィエラ・ラ・ボカッ!!」 「ディスクルパぁ」 あ、竹内さんがこめかみを抑えながら苛立った声でなんか言っている。それに対して押小路さんも英語じゃない言語でニヤけながら返しているぞ。凄いな、押小路さん。俺は大学の時に国際法関連の単位と、第二外国語を落単しまくったからバイリンガルとかトリリンガルの人をホントにすごいと思うんだよね。 「あれなんて言ってるんですか?」 解説が欲しかったので、紅茶運んで来てから俺の真横で片膝ついて離れない葉室さんに質問する。 「乃愛が黙れって言って、椿がごめんって言ってますね」 うん、貴女も賢いのね。因みに何ヵ国語こそっと聞いてみる。 「そ、そんなに多くは無いですが、英語やドイツ語を合わせて5ヵ国語くらいです」 す、すげぇ…大学時代にこんな彼女が居たら4回生の就活直前までロシア語に追われる事は無かっただろうに。あ、そもそもロシア語出来るかは聞いてなかった。すると、葉室さんは可愛く首を傾げながら、 「ズデゥラースタァビッジ⁇」 と言う。あ、出来るんですね。流石です。 押小路さんと竹内さんのコントによってアイスブレイクがされたのかな。ほぐれてきた雰囲気の中、俺は聞きたい事を順番に聞いていく。 「あの、秘書さんって普段からどんなお仕事されているんですか?」 「そうですね。私の役割は大体ほとんどが小町本部長が必要としてそうな資料や情報を集める事ですね」 と、葉室さん。 「それで資料を分析するのが乃愛の仕事で、纏めるのが私の仕事ってわけ」 押小路さんが話を引き継いで締めくくる。 「連係プレイなんですね。母は職場ではいつもどんな感じなんですか?」 「ふふふっ」 どうしたんだろうか、先程まではずっと不機嫌そうであった竹内さんが急に笑い出した。俺の質問はおかしかったのか?押小路さんも笑いを殺しながら、「ちょっとぉ」っと言っている。葉室さんですらクスクス笑いが止まらない。ママ、何してんだ?! 「いえ、ごめんなさいね。最近の小町本部長は…うふふっ」 何があったのかは知らないが、押小路さんを筆頭に秘書さん達は笑ってはぐらかし続ける。滅茶苦茶気になるんですけど。教えてくれたって良いじゃないかよぉ! その後も年上のお姉様方による圧倒的なトーク力に俺は歯が立たず、上手に手の内で転がされまくっていた。結局、真相は迷宮入りとなったが仕方あるまい。にしても、竹内さん結構おしゃべりなんだな。序盤は全く興味を示さなかったのに途中参戦してきた瞬間から流れ変わったよね。まぁ、それはさておき良い気分になったのでよしとしよう。それに丁度ママが戻ってきたみたいなんだし。 「あーくん、かーえろっ」 「うん、帰ろう。久々に外に出て動いたから疲れちゃった。えっと、皆さんお世話になり、有難う御座いました。お先に失礼致します」 「「「ふふふっ、またねー!!!」」」 こうして俺の職場見学は終わりを告げたのである。帰った瞬間にベッドに潜って爆睡したのは言うまでも無い。 ************************ 此処は本部長室での女子会トーク。 「行っちゃいましたね…あくとクン」 と、小町本部長のご子息様である、あくとクンが出て行ったドアを見つめながら私は呟いた。 「そうねぇ…ありゃ小町本部長がお熱なのも分かるわ」 と、椿が。 「……かわいかったな」 と、乃愛までも魅了されています。もちろん、私もですが。 「…にしても、乃愛!アンタ、いきなり横からしゃしゃり出てしゃべりたおしてたじゃないの。ちょっとどういうこと!?」 「むぅ、私も女だ。すこしくらいは良いだろ」 相変わらず、椿と乃愛はすぐ口喧嘩を始めます。 「もう、二人ともやめてくださいよ。だいたい私が一番喋れてなかったんですからね!」 私が二人を仲裁しようと声を掛けると、 「「美怜はあたまなでなでしてもらったじゃないのっっ!!!」」 と叫ばれました。しかも、見事にハモってましたし。本当に仲がいいんだか、悪いんだかわかりませんね。
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