第七話 会社デート編 その1

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第七話 会社デート編 その1

ガチャ…ガチャと、鍵が開く音がしたと思うと、 「あーくんっ、ただいま」 というママの声が聞こえた。やっべ、ずっとネットサーフィンしてる間に19時になったんかよ。 まぁ、14時起きたから5時間なんてあっという間だもんな。自分に対して言い訳している間にママはリビングまでやってきたようだ。 社長室にある様な革の黒くてゴッツいのではなくて、女子の部屋感溢れるふかふかでかわいい系の黄色いのソファでうつ伏せに寝転がりながらキーボードを叩いている俺の姿を見つけた瞬間、走って抱き着いてきた。上から覆い被さるように乗られている。 まぁ、俺としてはなんとなくそのママの行動は予測出来ていたのでアダルトサイトや腐女子系のスレの検索履歴を削除していた。我ながら天才である。 「すぅうう…はぁ……あぁ、いい匂い」 ママの方は画面の中などには一切興味を示さないようで、延々と俺のうなじ辺りで深呼吸を繰り返していた。変態過ぎる。 「昨日から風呂入ってないからどっちかっつうと臭いだろ」 「あーくんは清らなりなのっ」 「それ高貴なっていう意味な。源氏物語の桐壷か竹取物語で習うやつ」 そう言って俺は仰向けに寝がえり、手を広げて、上から覆い被さってくるママを受け入れる様に抱き寄せた。やはり俺も変態である。 「おかえり、お疲れ様」 と、耳元で囁きながら、頭を撫でていたら、 「ぷわぁぁ」 と、間の抜けた声と共に幸せそうにとろんっとした可愛い小顔が迫ってきた。そして、ママは一方的に啄む様なキスの雨を俺に降らせると、満足げにキッチンへと向かっていった。直後、 「えええっ、あーくんが…私の作ったご飯美味しくなかったの」 と、涙目でカムバックして来たのがとても可愛かった。 「嗚呼、えっとね、俺2時に起きてそれからずっとサラダは食べてた。で、ネットの波にのまれてそれどころじゃなかったの」 一応、言い訳をしておこう。 「うう…」 顔を伏せて上目遣いで恨めがましい顔で見つめてくるママ。くぅう破壊力パナイ。 「ごめん…なさい。あの、決して不味かったとかそういうわけでは無くて単純に俺が時間忘れてただけで…はぁ。仲直りしよ」 俺の困った表情を見て察したのか、ママは 「わかった、じゃあママは夜ご飯作るから待っててね」 と言ってキッチンへと再び向かった。といっても、今夜の献立の大半は俺が食べずに放置していた朝昼の残りであろうからすぐに出来るであろう。俺はパソコンを閉じてダイニングに向かった。 「それでね、ママも考えたんだけど、やっぱりあーくんが言う通り、まず、ジュニアNISAに関してはやらない理由が無いから直ぐに始めようと思うし、所得税に関しても低額なら問題無いんだけど、後々その仮想通貨がバブル迎えるんだったらやっぱり一律23.4%の法人税の方が取られないかなと思うの」 「じゃあ、法人立てる?一応調べたけどこういう場合って男性が名目上でも取締り代表責任者の方が創業融資されやすいよね。 で、創業融資まで考えた場合、1円企業じゃなくて、ある程度資本金入れておいた方が良いよね。どちみち、証拠金とか追証とかでお金注ぎ込まないといけなくなったりとかするかもなんだしさ。 それに、これからママがした事業とか別部門でいれてしまえば、初めは大体赤字なんだし、それである程度の税金対策にはなるよね」 肉じゃがを箸で突きながら俺が返答すると、ママは目をキラキラと輝かせ、祈る様に胸の前で手を組みながら、 「あーくんっ うわぁ、あーくんかしこくなったねぇぇ。ママ、感激。やっぱり私の子だわ」 と言って頷いている。 「いやぁ?ママは色んな難関資格持ってるじゃん。俺まだ何もないよ?」 ママは医者や弁護士や公認会計士や国家公務員やらなんやらと兎に角、資格を持ちまくっている。ママの部屋の棚にガサッと参考書が積み上げられていた。あと、なんだか知らないけどメダルやトロフィーもガサッと並べられていた。扱いが酷いから、今度ピカピカールを買ってメダル磨きや整理整頓等、掃除をしようと思う。多分、量が多過ぎてメダルを磨くだけで一日が終わりそうだけどね。 「うーん、それパパに出会う為だけに取ったのよね。全然仕事に役立たないからあーくんは要らないと思うわ」 ママは人差し指を口に咥えながら、首を傾げている。 「そう言えば、ママって何のお仕事しているの?」 「んーとね、投資系?」 マジか。やっぱ賢い人は投資に行くよね。しかも、社名聞いたら日本ナンバーワンの鷹司財閥の会社だったし。 「なんで疑問形なんだよ。でも、普段からママは仕事の話をしないから初めて知った」 「えへへ、ママはね、男の人があんまりお金に興味無いって聞いた事があったから喋らなかったんだよ」 ママから俺の常識的に真っ向から反する事を言われたので一瞬理解が遅れてしまった。 「はい!?金に興味無い奴なんているのかよ。お金無いと生活出来ないじゃん」 「そこは国と女の人が何とかするもんだからね」 おかしい。この世界おかしすぎる。資格やお金に対する評価が予想を大きく下回る。つか、平安時代か?通い婚の事でも思ったけど、女の金で遊ぶとか平安時代のクズ男達のことしか思い付かない。 「え、じゃあさ、お金じゃないなら何がステータスなの?」 俺の問いにママはきょとんとした顔で、 「男の人からの寵愛だよ?」 と、常識でしょ?的な雰囲気で言われた。貞操観念逆転世界を舐めてたわ。 「じゃあ、俺は今夜もママを寝かせない」 そう言ってチラッと見たら、赤面して俯くママが居た。可愛い。 俺はえへんと咳払いをして、 「真面目な話なんだけど」 と切り出した。 「ど、どうしたの」 「今月の日本株は円高進行と企業業績の不透明感が強まって少ししか上昇しないから、全面的なドル安を信じて為替に絞った方が良い」 転送前の世界通りなら、3月はこんな感じだった希ガス。 にしても、2016年にいきなり来れた事は本当に幸運だったな。 なんと言っても、俺は大学の原典講読という英語記事を只管読みまくってレポートを毎回提出するというクソ鬼畜講義で、BrexitというイギリスのEU離脱どうするか問題でガン落ちするものの大統領選挙で破産王トランプによる経済政策で爆上げする事に関して、必死に調べまくった事が有るからだ。 これは法学部限定の講義で、イギリスの法と政治と、アメリカの法と政治っていう単位だ。どちらも外国語Ⅰ、要は、英語の単位に含まれる講義だ。 ぶっちゃけ、これは俺の様な法学部法律学科の生徒対象では無く、法学部政治学科の生徒対象なんじゃねぇの?と、思うくらい、政治・経済にトピックした講義だった。 まぁ、年度によって人権問題とか環境問題で騒がれていた年だったら、憲法・世界人権宣言、河川法や工業用水法とかの環境法をメインで学ぶらしいから取った年の俺の運が無かっただけだな。とはいえ、それが今、滅茶苦茶生かされているので良いとしよう。 「あーくん天才!ねぇ、一回ママの職場に来てみない?」 う〜ん、2020年以降は俺天才じゃなくなるけどゴメンよ、ママ。
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