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第一話 転送
2020年 日本 京都 四条河原町 夕方
俺はゴーストタウンと化し、数台しか車が通らない横断歩道で信号待ちをしていた。そして、何度も溜息をつきながら、家に帰った後に親に言う台詞を考えていた。
「ねぇママ、あの人閉店間際まで売れ残った秋刀魚みたいな目をしてるけどどうしたのかなぁ?」
後ろに人が立っていた。スーパーの袋を持っている事から考えて買い物帰りの親子連れだろうか。絶対母親だけで良かったと思う。少女は学校でコロナを流行らせない為に不要不急の外出は控えて欲しい。それと地味にディスるのもやめて欲しい。
やけに遠回しで独特な表現のせいで一瞬理解が遅れたが、少女の言いたい事は、俺が死んだ目をしていると言うことだろう。そりゃそうだ。なんといっても……
「そうね、あれはきっとせっかく第1志望の会社に受かったのにコロナの影響で人員を減らしたい会社側の陰謀によって、オンライン研修の時の態度が悪いだとか適当なイチャモンをつけられて辞めさせられたからまた必死に就活をし直している憐れな大学生よ。嗚呼、彼に神の御加護が有りますように」
お、奥さん。お子さんとオソロの赤いワンピと給食マスクがお似合いの奥さん……あんた、テレパスですか!?正しく仰る通りの境遇なんですが。
俺はそう思いながらも青信号になった為に足早と去る。
自宅に帰った俺は手洗いうがいをしっかりした後、母親から消毒スプレーを全身にぶっ掛けられた。まぁ、いつもの事だ。慣れた。
「で、どうなの?」
夜飯を食いながら母親が今日の成果を切り出した。
「か、神の御加護が有りますようにって言われたんだ……」
面接の人からは違う事を言われたんだが、それよりもあのテレパス奥さんの言葉が引っかかってそっちが先に出た。
「……あっそう。洗い物しといて。じゃあ、私寝るから」
「はい……」
俺は母親と2人暮らしだ。2人であるが故に調停役が居ないことを知っているし、互いの友好的な関係性を崩す様な事はしてはならない事を知っている。
だから、どれだけ憐れみの目で見られようとも此処でぐちゃぐちゃ言ってはならないくらいは分かる。
「……はぁ、神の御加護か」
ベッドにダイブした俺はそう呟きながら眠る。
明日は簡単に内定が得られますようにと考えながら。
「うぉ!地震!?や、やべぇぞ!おかん!地震や!
って…………あれ?俺、ベッドで寝てたはずだよな?!」
眠りに堕ちる直前、俺は全身がシェイクされる感覚を受けて一気に目が覚めた。
すると、俺が居たのは真っ白な空間。
立っている感覚もないのにそこに留まれている不思議さに気付く余裕など無く、俺は混乱の最中にあった。
だが、俺の事情など構わずに、どこからか声がかけられた。
【ようこそ、貴方達は選ばれました】
俺は突然の声に思わず固まった。今、なんと言った?
貴方達(・・・)って言ったよな?達って誰か居るのか?
混乱すれど、その声は決して無視できない強制力を孕んでた。
そこへさらに言葉がかけられる。
【世界※3※※ァ※で、勇者召還が行われました。アカシックレコードをランダム検索した結果、世界※※r9※※の※※※※※※が条件に一致。必要条件と能力を付与してこれより転送します】
何となく俺ではなさそうという感覚がした刹那、どこからともなく、
「えっ?僕が?え?」
と言う声が聞こえた。やはり、貴方達って言ってたのは聞き間違えでは無かったようだ。
【同時に、世界00※※w※から、変革者がリクエストされました。アカシックレコードをランダム検索した結果、世界※※r9※※の※※※※※※が条件に一致。必要条件と能力を付与してこれより転送します】
これも俺では無さそうだ。
「え、私!?変革者?!」
先程と同じくどこからともなく声がした。やはり別の人間が該当するみたいだ。これは女の声だな。貴方達ってのは男女ランダムなのか?
【告。転送処理の際、通常とは異なる条件が重なり不具合が発生。不具合1。異なる対象者のメタ世界によるリンクのため、転送対象は精神とメタ世界の肉体に限定されました】
「不具合……。転送対象、精神とメタ世界の肉体に限定……」
難解な言葉を理解しようと俺は考え込む。
「あああああ!!ダメ!子ども置いてけない!!」
【不可。既に転送準備は終了しています。戻れません】
成程。本人が転送を拒絶すると不具合が発生するのか。つか、強制的に送り込まれるのやばいな。基本的人権侵害だぞこれ。
俺はこの後も何度か勇者召喚だの、変革者の到来だのといった、中学から高校時代に読んだラノベ的展開を聞かされつつも一向に自分の番が来ない事に焦りを感じ始めた。ちょっと質問してみるか。
「すみません。あの俺はどこの世界から所望されましたか?」
【あなたは対象外者です。不具合2。対象外者の転送準備が完了。対象外者の世界※※r9※※での肉体は失われました】
「…はぁああああ???巻き込まれ!?巻き込まれなやつ!? ってか、肉体は失われましたって!おい!死んだやんか!」
【対象外者の転送許可。世界※3※※ァ※、もしくは世界00※※w※に転送。どちらに転送を希望しますか?】
「なら、どっちの世界の方が可愛い女の子多いの?」
【その質問に答えるには情報が足りません】
「ちっ、なら、人間の男女比女多めで貞操観念逆転世界はどっちや!?」
【貞操観念逆転世界の情報が足りません。男女比はどちらも女の割合が男の9倍です】
「おおっ!文明の発展度はどちらの方が高いの?」
【世界※3※※ァ※は、世界※※r9※※の1514年に相当する文明度合いであり、世界00※※w※は2016年に相当します】
「ヨーロッパではルネッサンス、日本では戦国時代かぁ。中々いい所ついてくるなぁ。
でもまぁ、より発展してる世界00※※w※の方が安全安心だよね。
後、巻き込まれて不当に拉致されたことに対する慰謝料として、他の召喚されていった者達と同様に特別な能力を請求したい。本来の肉体の人生分、今後生きるのに有利になるような能力を要求する」
【能力の内容によっては可能です。どのような能力を希望しますか?】
「え、ほんまに!?それなら株価の未来予想とか、瞬間移動の魔法とか、イケメンチートとかコミュ力とか……」
【一部可能です】
俺の要求した能力は概ね許可された後、声は告げた。
「それでは転送を開始します」
〜此処から第2の人生が始まる〜
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