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「…臭い、汚い」
1LDKの古いアパートが男の住まいだった。部屋にある服はどれも煙草の臭いがする。服がそこら中に畳まれること無く散らかっている。1人用のこたつ台には吸殻がたまった灰皿、缶ビールの空き缶がそのままになって、食べこぼしのシミがホコリと一緒に固まっている。台所には染み付いた食器が積み重ねて置かれている。食べた後のカップラーメンに箸がつき刺さっまま、腐敗している。
「荒れた生活してるなぁ」
窓を開けてゴミを袋に集めて食器を洗った。掃除機をかけて床を拭いた。シンク下にあったハイターをかけて風呂を磨いた。服を洗濯し干した。
シャワーを浴び、髭を剃った。
急激に空腹を感じた。この生活感からきっと普段からまともな物を食べていないことが分かる。常に栄養失調気味なのか体が気怠い。
期待はしていなかったが1人用の小さな冷蔵庫には食べられそうな物は入っていなかった。あるのは水とビールだけ。
何かちゃんとした物を食べたい。近くのスーパーで買い物に出かけた。白菜、葱、椎茸、肉、うどんを買った。アルミの片手鍋に切った具を入れて鍋にして食べた。お腹いっぱいになると感じたことのない欲求が湧き上がった。肺の辺りが変だ。
「吸いたい……」
口から零れた言葉に驚いた。
「吸えないよ……」
3年前に離婚した。娘がひとりいた。離婚した後、娘は死んだ。元妻が男と会っている時に交通事故にあったのだ。それを見ていた霊がいてそれを知った。生まれつきの能力ではなくその頃から田中は霊を見るようになった。
元妻に憎しみはない。ただ自分の無力さに耐えられなくて酒の量が増えた。娘の事を思うとやりきれなかった。自分の記憶じゃないのに鮮明に脳裏に記憶が浮かんでくる。
『 娘はお前と同じで自分が死んだって気がついてないんだ。きっとどこかで泣いている……だから俺があの子を見つけてちゃんとあの世に返してあげなきゃいけない、その為に俺はこの能力を得たと思う』
『 お前に娘を見つけて欲しい……あの子をあの世に返してくれたら、この体をお前にやるよ……歳食っててわりぃけどな』
そう男は言った。
「おじさんありがとう」
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