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『 どうせ俺は酒飲んでばっかりだし、何日かお前に俺を貸してやる…娘を 見つける前にくたばる訳にいかねーから』
この体が休息を求めているのを感じる。臓器の痛みなのか背中に鈍い痛みがある。体にこもった熱が不快だ。息苦しくて、浅い呼吸しかできない。喉と胸に溜まった粘った痰ががとれない。きっと煙草のせいだ。何も無いのに気分が落ち込む。心がある所が痛い。全てが虚しく感じる。娘を失った悲しみがこの体から伝わってくるのを春樹は感じた。そんな男から体をもらうなんて正しいとは思えない。だけどそれしか生きる方法がない。生きるためならなんだってする。ずっと透君といたい。自分が死んでいたと気がついてから切実に透君といたいと思うようになった。
目を閉じるとあっという間に眠りに連れて行かれた。朝になったら男の娘を探しに行く。
男の名は田中という。
会社を先月辞めた。仕事をやめて娘を早く見つけたかったからだ。
「……煌星って読むんだ」
田中がつけたとは思えない。
大人びた表情でピースサインをした、田中が溺愛していたであろう5歳の幼女の写真を手帳に挟んで家を出た。
春樹ははじめに子供のいそうな公園を探した。 小さい子供は気が付かずに霊と遊んでいる事があると田中は言った。
しかし中年男が子供に話しかけるだけで不審者と間違われかねない。保護者の目の離れた場所で写真を見せて同じ年頃の子供に訊ねてみたが収穫はなかった。
住宅街の中の小さな公園や、大きな池のある公園も捜したが煌星の姿はない。
こういう探し方ではいつまで経っても見つからない気がする。
田中が家族と住んでいたアパートに行った。誰か借りていなければ内見したいと不動産屋に行くつもりだったが、既に人が借りていて中に入れなかった。田中もここには幾度となく来たと言っていた。あてもなく街を歩いた。田中にマンションに連れてこられた時は知らない場所だと思っていたのに、透の住むアパートに近かった。徒歩で15分くらいの距離だ。逆側から透のアパートに来ることがなかったので気が付かなかった。透のアパートを外から覗いた。居るのかどうか分からない。この姿で会って分かってもらえるだろうか。分かってもらえなかったらどうしよう。見た目は本当にただのおじさんだ。中身が春樹だと言ってすぐに信じる方がどうかしている。春樹が霊体まま側にいたから透は精神に異常をきたしていただけでもしかしたらもう元気になっていて春樹の霊のことなど忘れてしまいたいかも知れない。
「僕の事忘れないで……待ってて」
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