君の瞳には映らない

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「馬鹿な事はするなってちゃんと言ってこい」 霊の姿では関わる相手の負担が大きい。田中に再び体を借りた。 春樹は何度も訪れた透の部屋の扉の前で何もできずにいた。 二人共通の好物のたこ大魔王のたこ焼きを買った。 アパートの住人が通りがかり不審そうに春樹を見た。慌てた勢いでインターフォンを鳴らした。 「はい」 久しぶりに聞く透の声。 その声から警戒心が伝わってくる。室内モニターに知らない男が写っている筈だ。 「あのーあっ透君……春樹だよ。しんっ信じられないよねでも本当だよ……あっ会いにきた……」 透は何も答えない。いきなり直球はまずかったのかもしれない。 「こっこの姿は田中さんっていって……お世話になってる人……信じて……本当だよ」 透は何も答えない。 もうダメだ。不審者だと思われた。 「たこ大魔王、買ってきた!一緒に食べよっ」 透は何も答えない。 「やっ…やっぱり今日は帰るね」 春樹はドアノブにたこ焼きを引っ掛けた。 この姿でいきなり訪ねて信じる方がどうかしている。通報されるかもしれない。職務質問されたらこの状況を説明しようがない。春樹は逃げるように踵を返した。 この場から早く離れよう。早足で通りに出た。 「待って!」 サンダルを履いた透が駆け寄ってくる。 「本当に春樹?」 瞳の奥を覗き込むような視線。 「春樹?」 「うん」 あっけなく通された部屋は春樹のいた頃と変わらない。 「なに飲む?」 「麦茶がいい」 透はいつもヤカンで沸かした麦茶をヤカンごと冷蔵庫で冷やしている。大きめのグラスに氷と冷えた麦茶を注いだ。室内は11月も終わり頃で肌寒い。それでも透は必ず麦茶を切らすことなく作っている。 「やっぱうまいな……大魔王」 「透君が作ったの、美味しかった」 「あぁ……あれか」 色々な事を話したいのにどんな風に話していいのか分からない。 「透君、僕を殺した人探してる?」 透が動きを止めた。 「僕、殺されたのは悔しいけど透君がそのせいで人生狂っちゃうの嫌だよ……」 春樹は透の手を握った。 「だから、犯人の事は忘れて……」 透は春樹の目を見ない。 「お前はさ、遺された人間がどうやって過ごすか分かるか?……大切な人、無意味に殺されて心の中どうやって納得させるんだよ……憎いんだよ、お前を殺した犯人が…そいつ見つけて…俺が殺す」 「やめてっ!……僕、必ず戻ってくるから…」 「戻ってくる?」 「うん……約束する」
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