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「そんな事できるのか?」
「今は、はっきり言えないけど僕はこのまま死ぬつもりはない……だから犯人は探さないで」
透は深いため息をついた。そして目を閉じた。感情を押し込んでいるみたいに見えた。
自分の死が透を酷く苦しめたのだと知った。
春樹の顔を見つめながら透はこう言った。
「この人、老けてんな」
「僕の恩人だよ」
「顔も春樹と全然違う……」
そう言いつつも透の目は優しい。
「うわっ」
急に透の胸に押し潰された。
「……こうすると春樹でいっぱいになる」
透の腕にきつく巻かれた。清潔なシャツの匂いがした。
「春樹……どこにも行くな……俺の事、1人にしないでくれ…」
「うん……」
生きて必ずここに戻ってくると春樹は強く思った。
家の近くまで透は送ると言って聞かなかった。事件の事がそうさせているのは春樹にも分かっていたが、見た目が中年男性の自分をまるで若い女性のように扱う透に、苦笑してしまう。
「今度いつ会える?」
透が寂しそうに聞く。その仕草が頼りなさげでかわいいと思ってしまう。
「いつかは約束は出来ないけど必ずまた会いに行くよ」
「電話は出来ない?」
「どうかな……頼んでみる」
この体も持ち物も全て田中のものだ。春樹は曖昧な言い方しか出来ない。
「……帰したくないな」
透が腕を掴む。優等生で、人が苦手で時々激情的なあの透が甘えるようにそう言った。
「……待ってるから」
透が手を離した。
「おやすみなさい……」
そう言うと、 透は寂しそうに笑っていた。
春樹と田中は娘の捜索を本格的に始めた。田中の話によると子供の霊はよく移動するらしい。 子供の好きそうな公園や、動物園、遊園地など、とにかくしらみ潰しに探し回った。話のできそうな温厚そうな霊には娘の特徴を伝え見かけたら教えてくれるように頼んだ。 春樹は自分が霊だと認識してから段々、霊と人間の区別が出来るようになってきた。春樹のように覇気のある霊はそうはいない。霊は虚ろな目をしていて人間のようには目は合わない。大体はそんな無害な霊が多いのだが、怖い思いもした。娘の話を聞こうと霊に近づいた時だった。その女性の霊は春樹を見るなり何かを思い出したように怒りだし大声で怒鳴りだした。よく見ると両腕に赤ちゃんを抱えていた。春樹が謝ってその場を立ち去ると走って追いかけてきた。怖くて全力で逃げた。ホラー映画そのものだった。
ある時、話しかけた老婆の霊が振り返ると両目の目玉がなかった。そして春樹にゆっくり近づいてきてお前の目玉をおくれといいながら手を伸ばしてきた。動きはゆっくりだったが枯れ枝のような指が春樹の目に近ずいてきて春樹は慌てて逃げた。そんな事があっても休まずに探し続けた。それでもなかなか娘の情報は得られなかった。本当にまだこの世に留まっているのかそれすらあやしいと春樹は思っている。それでも体を与えられる条件が娘を探し出す事なのだから諦める訳にいかなかった。
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