君の瞳には映らない

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そうして毎日娘を探し続けて1ヶ月程たった。あれから透に1度も会っていない。透の寂しそうな顔が何度も脳裏にうかんだ。その度に娘を早く探そうと思えた。田中は酒と煙草ばかりで食事が極端に少ない。この1ヶ月で随分と痩せている。頬はこけ目尻には深い皺ができ目だけがぎょろぎょろとしている。腹のあばらが浮いている皮膚がたるんでいる。田中は自分の体に無頓着でまるでゆるやかに自殺を図っているみたいだった。時々、春樹は田中の体を借りる事がある。ずっと霊の姿でいると人間的な感覚が失われ意識が次第に朧になるのだ。霊と自分を認識してからそう感じるようになった。そのまま召されてしまいそうな錯覚がおきる。だから体を借りて人間のエネルギーをチャージする。その度、田中の体で春樹が沢山食事をした。買い置きの酒を捨て、ゴミをまとめて掃除をした。 そして娘の仏壇に花を供えお菓子を置いた。余計な事だと言われはしないかと思っていたが、田中は何も言わなかった。田中の体から春樹にも後悔や悲しさが伝わってくる。どんな時も胸が晴れることの無い悲しみに覆われている。子供を亡くす親の苦しみは果てがなく永遠に心に居座るのだろう。春樹はそんな男の体をもらってまで生きたいと思っている。田中という一人の人間がいなくなってその後釜におさまる為にここにいる。田中に生きて幸せになってもらっては困るのだ。生きて幸せになるのは自分なのだ。春樹は自分がとても身勝手な事に気がついていた。 ふと自分の両親の顔が浮かんだ。あの日見た、明るかった母はとてもやつれていた。実家のマンションも荒れていた。せめてもの救いが両親にないのか考える。名乗れなくてもどんな形でもいいから会いたいと思った。 時々、小さな子供の霊もいた。大抵は子供の遊んでいる場所にぼうっとして佇んでいることが多い。人間の子のように能動的な動きはしない。その中に田中の子もいるのではないかと注意深く顔を見る。殆どの子供の霊も大人の霊と同様に表情がないので生前の写真とは雰囲気が違うはずだ。 少女の霊がいた。田中の娘より少し年上に見える。 何をする訳でもなく、じっと公園のベンチに座っている。 「こんにちは」 春樹は声を掛けた。 少女は春樹を見た。底の無いものを見るような瞳で見返した。 「5歳位の女の子見なかった?この子なんだけど……」 写真を見せた。聞こえているのか分からない程の無反応だ。 「しってる」 抑揚のない声で少女は答えた。 「この子、病院で泣いてる。ずっとお父さんを待ってる」 「それはどこの病院かな?」 少女はそれ以上何も答えなくなった。
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