君の瞳には映らない

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公立の進学校を卒業し、透は4月から大学生になった。サークルには所属せず、黙々と単位だけはとっていく。最近、頻繁に合コンに誘われる。断り続ける事にも疲れた。透は頭のできも顔もスタイルも良い。透を呼んだら行っても良いと言う女の子が多い為、女の子の貢ぎ物として呼ばれるのだ。 「透くん!」 背後から高いアニメ声が透を呼んだ。俺をその呼び方で呼ぶなと透は思った。 「何?早川さん…」 早川美都(はやかわみと)が媚びるように透を見上げる。体が小さいから下から見上げる仕草になる。黒目がちな瞳。ふんわりと柔らかそうな髪がゆれる。全て計算尽くされた小動物のような可愛いらしさ。それでも可愛い者には男は弱い。彼女はそれをよく知っている。その自信が透けて見えている。一度、たまたま雨の日に傘を貸したことがあった。コンビニで買ったビニール傘だ。大雨の中、急いだ様子で早川美都が飛び出そうとしたからそれを渡した。それからことある事に透にアプローチするようになった。 「早川さんなんてかた苦しいよー美都って言ってよ」 どうして親しくもない早川美都を名で呼ばなければいけないのだろう。 用事もないのに話しかけるなと透は思った。 「そのさっき聞いちゃって………友達の事……大丈夫かなと思ってさ」 「何が?」 透が青ざめる。氷の心でその黒目を見下ろした。 その透の反応に早川美都は目をそらし、目が泳ぐ。 「いや……何でもないよぉ」 さらに媚びるように笑ったが引き攣って笑顔が成り立たない。 「何がなんでもないの?」 「ごめん……気にしないで…またね……」 早川美都は泣きそうな顔でその場を去った。 「地雷やったな」 透と 同じ学部の山村がそう言った。山村は今のやり取りを隣で見ていた。人の良い関西人である。 「あんまりいじめんとき……あの子はお前と仲良くなりたいだけなんやから」 「あんな女と仲良くなりたくない」 透は抑揚のない声で言った。 「顔はかわいんやけどな」 あの事は口にしない。口にしなければ本当の事にならない。
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