君の瞳には映らない

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春樹は透の部屋に来ていた。二人で買い物をして帰ってきた。買い物代は全部透が払った。荷物も持たせてもらえなかった。材料を透が広げる。 「春樹、お前は見てろ……俺がたこ大魔王を超えてやる!」 たこ大魔王とは、商店街に昔からあるたこ焼き屋でこの町の民のソウルフードである。ソースと青のりとカツオ粉だけなのにあの店のたこ焼きには謎の中毒性がある。 「透くん!頑張って!」 透が生地を熱したたこ焼きプレートに流し込んだ。続いて刻んだタコとキャベツと天かすをパラパラとまぁまぁの手つきで入れる。少し時間を置いて生地を竹串で割り、丸めて、ひっくり返す。生地の周りに色がつきはじめる。ふっくら脹れてくれば食べ頃になる。 透が得意げにニヤける。春樹は目を丸くして待ち遠しくそうに喉を鳴らす。 「よぉし、できた!」 「すごーい!透くん!」 透は春樹に先に取り分ける。ソースをかけて仕上げに青のりとカツオ粉をトッピングした。 「食えっ」 嬉しそうにに春樹が受け取る。 「うん!いただきますっ……あっつ!」 春樹は丸ごと口に頬張って悶絶する。 「あっつあっつ!やけどしたー!麦茶!」 春樹は麦茶で火傷した口の中を潤した。 「うめっ!なぁ春樹……俺の、たこ焼き大魔王超えたな!」 どうしたんだろう。 今日の透はテンション高いな、と春樹は思った。 「うん!超えたね!」 どことなく会話に微妙なタイムラグがあるような、春樹はそんな気がした。それに最近、元気がない。何処か悪いんだろうか。会話をしていても空中の塵を見るような遠い目をすることがよくあった。別にお互い黙ったままで同じ部屋にいる事はよくあるので苦痛にはならない。そんなに気にする程のことでもないかなと思うが…。 それに 透はもとから口数の多い方じゃない。よく言えばクールだけど人当たりはお世辞にも良いとは言えない。何かを聞かれてもよく考えもせずに『別に』『知らない』と言ったりする。透で会話が必ず出途切れる。 だから 複数の人と話す時は、必ず春樹が会話を繋いだ。透が感じが悪いと思われるのは春樹も嫌だった。
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