少年窃盗団の放課後

1/12
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

少年窃盗団の放課後

白色のセダンが夜の郊外に向け憂鬱な気配を纏い走っている。 ギリギリすれ違える程度の道にゆっくりと止まると、助手席に座っている母と運転席に座っている父が言う。 「今日も頑張ってね」 「さっき言った場所に駐車しているから、終わったらそこへ来い」 駿平(シュンペイ)は嫌々ながらも車を降りる。 「・・・分かった。 行ってくる」 ゴム製で作られた特別なスーツに身を包み、きっちりネクタイを締められたその姿は、まるでどこぞのお坊ちゃんといった様相だ。 親は笑顔であるが駿平は気が乗らず足が動かない。  それには深い理由がある。 ―――今日だけはやりたくないなぁ・・・。 ―――いっそ、このままバックレる? ―――でもそしたら二人に見つかった後が・・・。 ゆっくり歩いていると耳に付けているイヤホンから学人(マナト)の声が聞こえてきた。 『おい、スン! 今どこにいるんだ? 集合時間はとっくに過ぎているんだぞ! 早く来い!』 仲間内だけで使われるコードネームで呼ばれると、嫌でも仕事ムードに切り替えられる気がした。 受信専用のため言い返したくても言い返せない葛藤を飲み込み、気持ちが乗らないまま集合場所へと急ぐ。 茂みの影に仲間二人は隠れていた。 「ごめん、遅れて」 「遅い! 30分前集合だぞ!」 小声で学人に怒られ、翔(カケル)に突っ込まれた。 「スンが一番ここから家が近いのに、一体何をやっていたんだ?」 「まぁ、色々と・・・」 ―――ここまで来たらもう逃げられない、か・・・。 ―――今日が無事に終わるのか不安だ・・・。 心の中で諦めの溜め息をついた。 学人と翔は目標をじっくりと見定めている。 今からは二人のことを本名で呼ぶことはご法度で、コードネームである“ガク”と“ショウ”と呼ばなければならない。  ただスンに切り替わった駿平も慣れているため、頭を切り替えるのは容易いものだ。 二人共一見すると正装だが、駿平と同様ゴム製で動きやすい特注の服を着込んでいる。 「もう時間がないから、早速説明するぞ」 駿平と翔は学人に近付いて耳を傾ける。 「今日狙うのは、西園寺家の夫人が首から下げているネックレスだ。 それを盗む。 屋敷の中の間取りはちゃんと頭に入っているな?」 駿平と翔は分かってるとばかりに無言で頷いた。 「よし。 まずは俺が、パーティ会場のホールに侵入する。 そして上手く誘導して夫人に睡眠薬を飲ませる」  「その効果を待っている間、僕は屋敷へ入り武器を取りに行くんだよね」 駿平の気は乗っていないが、計画自体は綿密に打ち合わせ済みだ。 「あぁ、そうだ。 スンが武器を確保しそうな頃、次に俺は夫人を二階の空き部屋へ誘導する」 「それでガクが会場で夫人を追いかける者がいないか見張っている間に、スンは空き部屋へ行き眠っているであろう夫人の首からネックレスを盗むんだ。 ここまで分かってるな?」 「もちろん」 「もし人が入ってきたり見つかったりでもしたら、武器で攻撃しろよ」 「了解」 それでも念のため最終確認をしているのは、計画には不測の事態が付きものだからだ。 寧ろ計画通りにスムーズに事が進んだことは少なかった。 「そしてショウはスンからネックレスを受け取り、屋敷から出る。 ショウは絶対に顔を見られるなよ」 「おう。 任せておけって」 足に自信がある翔は爽やかに笑ってみせる。 「ショウが屋敷へ入るタイミングは俺が指示を出すから。 ショウから無事“外へ出た”という合図がきたら、俺もこっそり会場を抜け出す」 「僕は眠っている夫人を起こし会場へ戻るよう促してから、外へ出ればいいんだよね」 「あぁ。 夫人がいなくなったら騒ぎになるだろうから、素早くな」 真剣な眼差しを向ける二人を見て学人は言った。 「よし、流れは以上だ。 二人共、大丈夫そうだな」 ―――・・・大丈夫だけど、ここまで心配されるのもなぁ。 ―――そんなに僕って、頼りない? 三人は中学生の少年窃盗団である。 駿平以外は中学三年生で先輩にあたり、中学二年生の駿平は年下として面倒を見てもらっている。 元々三人の両親が同じ窃盗団で、それを早くも受け継いだ感じだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!