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第2章 良太
次に気が付くと、私は自分の家に戻っていた。でも自分の体はもう焼かれて無くなっていて、リビングの隅に小さなお仏壇がおいてあった。そこにお花と私の笑った写真が飾ってある。良太がダイニングのテーブルでいつも通り宿題をしている。一人なのかな? 兄弟がいない良太が可哀そうだった。良太の前に座ると、良太が宿題をしながら、ノートに私の顔を描いている。涙が出てきた。良太を抱きして、
「ママ、ここにいるよ」
って言って安心させてやりたかった。でも、今の私はいくら大きな声で叫んでも、良太には聞こえないし、抱きしめてあげることもできない。もうすぐ、私が急いで卵を買いに出かけた時間だ。良太に聞こえないことを承知で、
「良太、ごめんね。ママ、急にいなくなっちゃって」
と良太の傍に膝間づいて彼の小さな肩を抱きながら言うと、良太が描いていた絵から涙の光った目ををあげて、
「ママ~、どこに行ってたの?!」
と言って私を見た。私は驚いて、
「良太、ママのこと見えるの?」
と返事をすると、
「ママ、ママ、なんで死んじゃったの?馬鹿~!」
と泣きながら私に抱きついてきた。私は良太を抱きしめながら、
「良太、本当にごめん。本当にごめんね。ママね、オムレツ作ろうと思って、卵が足りないことに気づいて、スーパーに出かけたら、トラックにぶつかっちゃったの…。」
「ママ、今どこにいるの。戻ってきて! 今すぐ僕とパパのところに戻ってきて!」
リビングの窓から差し込んでいた夕日がだんだん陰って暗くなっていく。
「ごめんね、良太。もう良太とパパのところには戻れないの。今はね、空の高いところにいるの。でもね、良太、ママは良太とパパのことが大好き。いつも良太とパパのそばにいるよ。寂しくなったら、ママのこと思い出して。話しかけて。ママはいつも良太の味方だから」
そう言うと、良太が
「いやだ、いやだ、ママ~、行かないで!どこにいるの?」と泣きながら叫んだ。
とうとう夕日が沈んでしまった。私は泣いている良太が愛おしくて、
「良太、良太。ここだよ。」
と呼びかけたが、もう良太には私のことも見えないし、聞こえないようだった。夕日が沈んでしまうまでの5分だけが、神様が私に与えてくれた時間だった。
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