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いつかの日とは違い、明るい日差しの中を並んで歩く姿はいかにも「散歩」を楽しんでいるふうで、不安を感じさせない。
話しているのはサラばかりだろうが、二人の周りに浮く白い息も、心なしか楽し気に散っていく。
――年配の夫人だと思ったら、若い女性が現れて。
わずかな期間でここまでの変化をもたらした。
クレイグは人を見る目にそれなりに自信があったが、こと女性に関してはそうとは言えない。
これまでに試した何人かの子守のせいで、ますます苦手意識が募っていた。
修道院育ちのせいか世間慣れしていない感はあるものの、穏やかなサラは今のアルヴィンを預ける子守として相応しく思えた。
とはいえ、手放しで歓迎するのは早く、まだしばらくの様子見は必要だろうと気を引き締める。
だが、彼女をアルヴィンに引き合わせてくれたことに関しては、ルイスに礼を言わなくてはならないだろう……年齢のことを話さなかった文句を付け足す必要はあるが。
身支度を整え急ぎ朝食を済ませて、クレイグは庭へと降りる。
探すまでもなく、二人は例の池のそばにいて、白鳥へパンくずを投げているところだった。
「白鳥か。俺の子どもの頃も渡って来ていたな」
「おはようございます、クレイグ様。そうなのですか、毎年?」
アルヴィンからの挨拶はなかったが、目は合った。
クレイグはそれに軽く頷くと、サラから差し出されたパンの切れ端を受け取って、近くにいた白鳥にぽい、と投げる。
平たい嘴で器用に摘まみ上げて食べる大きな白い鳥に、アルヴィンの注意は移った。
昨夜の冷え込みで、池の奥側には氷が張っている。
全面が凍るのも間もなくで、白鳥はそれまでの期間限定だ。
「この池の水を引き込んでいるもとの川のほうに、飛来地がある。そこから何羽かここに飛んできているようだ」
「それで納得しました。白鳥は、昼を過ぎるといなくなってしまうのです。きっとそちらに戻っているのですね」
だから早起きして見にきたのだ、とサラは同意を得るようにアルヴィンに微笑みかける。
やはり返事はしないが、代わりに何度かぱちぱちと瞬きをした。
つられるようにクレイグも目をしばたたかせ、手を膝に置き、アルヴィンと目線が合う高さまで姿勢を低くする。
「川にはもっとたくさんの白鳥が来ているはずだ。……アルヴィン、見に行くか?」
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