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ここに来るまで実際、どうしようかと迷っていた言葉が気負わずでてきたのは、今までと違い、瞬きとはいえアルヴィンの反応が見られたから。
クレイグの誘いは思いもよらなかったようで、アルヴィンは先ほど瞬いたブルーグレーの瞳を今度は大きく見開く。
その瞳に映るクレイグは、自分でも分かるほど不器用な笑みを浮かべていた。
「大きいのも小さいのもいるし、それに黒鳥もいたはずだ」
「素敵。他の水鳥も?」
「ああ、鴨なんかもいる」
「だそうですよ、アルヴィン様」
サラが声を掛けても、アルヴィンの視線はクレイグから離れない。
何かを探るようにじっと見つめてくる甥の瞳を、クレイグはまっすぐに受け止めた。
「馬車は使わないで、馬で行く。一緒に乗らないか」
アルヴィンの手が、サラの手を取ってぎゅっと力を入れたのがクレイグの目の端に映った。
にこりと見下ろすサラと視線を合わせたアルヴィンは少しして――ほんの小さく頷いた。
「っ、よし」
「キッチンへ行って、もっとパンくずをもらってきましょうね。あと、手袋と帽子も厚いのにしましょう」
屋敷へと足を向けながら、サラがアルヴィンに向かって嬉し気に外出の支度を話し始めるのを、クレイグは後ろを歩きながら眺めたのだった。
意外なことに、サラは乗馬が得意だった。
もちろん修道院で身につけたのではなく、アークライト男爵家に嫁いでからだという。
男爵が体調を崩す前は、遠乗りにも出かけたそうだ。
そんなわけで、三人で川へと向かう。
抱き上げて馬に乗せる時こそアルヴィンは体を固くしたが、後ろに乗ったクレイグが手綱を握って歩き出してしまえば緊張を解いて背中を叔父に預け、道中はごくスムーズだった。
川には話したとおりたくさんの白鳥がいて、さすがにアルヴィンにも変化が見られた。
声こそは出ないまでもその瞳が何度も見開いたり、あちこちを眺めたりしている。
白い息を吐いて鼻と頬を赤くしながらパンを放る手も、心なしか楽しそうに見えた。
最近のアルヴィンの体力を鑑みてそこまで長い時間は滞在しなかったのだが、体は正直でやはり疲れたようだ。
帰りの馬上でうつらうつらと揺れ始めるアルヴィンは、がっしりしたクレイグの腕に支えられて少し早めの昼寝と相成った。
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