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その晩。クレイグがアルヴィンの部屋を訪れると、サラが本を読み聞かせていた。
使用人達によると義姉が家にいる時は毎晩そうしていたとのことで、サラはそれをなぞっているのだ。
クレイグがアルヴィンの就寝前に顔を見に来るのは同様に、兄の習慣に倣ったものである。
お休みを言って、自分や兄と同じアッシュブロンドの髪を撫でる。これもサラの勧めだ。
父親とは違う武骨な手を、これまでアルヴィンは拒絶することもなく受け入れていたのだが、この日は違った。
「……?」
撫でた手を引こうとしたら、袖口を掴まれた。
驚いたクレイグがアルヴィンの顔を見ると、少しだけ動揺を浮かべた頬を紅潮させていて、逆に戸惑う。
「叔父様に、ここにいてほしいのですね」
いち早く事態を理解したサラの問いに、アルヴィンは黙って頷く。
ここに、と小さな手が叩くシーツの上に、クレイグは気付いたら乗っていた。
「あら、私もですか?」
今度はサラの袖を掴んだアルヴィンは、自分を挟んで寝台の両脇に叔父と子守を配す。
「……これは、どうしたらいいんだ」
「ふふ、なんだか照れますね」
二人の袖口を握ったまま、アルヴィンはこてんと寝入ってしまった。
目を瞑ったその顔は年齢相応にあどけなく、満足そうだ。
一つの寝台の上で、五歳の子どもを挟んで横になる男女。
その構図は、夫婦とその息子にしか見えない。
――まるで家族のようだ。
クレイグはそう思い至って、慌てて頭を振る。
すやすやと寝息を立てるアルヴィン越しにサラと目が合って、誤魔化すように視線を逸らしてしまう。
あくまで叔父と子守。
サラは亡くなった夫を今も愛しているし、クレイグは心を痛めた甥を助けることもできない男だ。
そんなことを考えていいはずがない。
自分の考えに驚いたクレイグは、距離をとらねばと思うものの……心地よさげに寝息を立てる甥の手を無理に引きはがすこともできず、そのまましばらくを過ごしたのだった。
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