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応接室へと入ると、ルイスはどさりと腰掛ける。
自身の領地からこのブレントモアへ来る道は、街道を通れば便利だし安全だが、それなりに時間がかかるのだ。
ティーワゴンを運んできた使用人を下がらせ、軍時代の名残で自分達で茶を淹れる。
「アルヴィンは随分とよくなったじゃないか。僅かだが、表情もでてきたようだ」
「ルイスもそう思うか」
「ああ。レディ・アークライトならばと思ったんだ」
単なる称賛に聞こえたはずのその言葉に含まれた何かに気付いたのは、クレイグの戦地で養われた勘、といったものだったろう。
「……どういうことだ?」
「なにが」
「とぼけるな」
クレイグはルイスの真正面のソファーにやや前かがみに腰を下ろした。
平和そのものの田舎の領地に不似合いこの上ない鋭い眼光に、ルイスはたじろぐ。
重苦しいしばしの沈黙は、肩を落とし息を吐く音で途切れた。
「はぁ、失敗した……話すのはもっと後にしたかったんだけど」
「ルイス」
「分かったよ、そう睨まないでくれ。獅子に対面させられた子鹿の気分になるだろうが」
「子鹿ってガラか」
「ったく、こういうことに関しては勘が働くんだよな、クレイグは」
軽く返すと諦めたように肩をすくめた。
他言無用と言いおいて、もとより二人しかいない部屋でルイスは声を潜める。
「彼女が修道院にいたことは聞いたんだよな」
「ああ、本人の口から初日に。義母と折り合いが悪かったと言っていたが、もしかして違うのか?」
嘘をついているようには見えなかった。
騙されたのだとしたら――それはクレイグの不明によるものだろう。
「いや、勘違いしないでくれ。間違ってもいないし、実際、彼女はそうだと信じている。ただ、事実はもう少し複雑というか」
サラが修道院へと送られたのは五歳。幼い子どもの記憶など、いくらでも思い込ませることができるとルイスは苦く笑う。
クレイグの眉間の皴は深まる一方だ。
「彼女の祖父は……ウォーベック侯爵だ。サラは、侯爵閣下の隠された孫娘だよ」
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