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 それ以上に、故男爵はやはり彼女にとってかけがえのない夫なのだと、ルイスの話を聞いてクレイグの心には深く刻まれた。  男爵がサラにそうしたように、今度はサラがアルヴィンを導いてくれるのではと思ったのだと、そのルイスに言われればクレイグは頷くしかない。 「俺の家が、アークライト家とずっと親しくしている関係で知っている話だ。頼むから」 「誰にも言わない。当然だ」  言い切るクレイグにルイスはようやくほっと息を吐く。  本当は、アルヴィンがもとに戻ったら告げるつもりだったとこぼされた。 「君の口が堅いのは知っているし、僕としてもずっと隠し通すつもりはなかった。ただ、今は侯爵家との縁は切れているとはいえ、彼女にとって面白い話じゃないだろう。君はそんな顔なのにすぐ表情に出るから」 「なんだって?」 「仏頂面のくせに分かりやすいって褒めてるんだよ」 「褒められているように聞こえないが」 「わ、ちょ、」  クレイグがゆらりと立ち上がったところに、ノックの音が響く。  入室を許可すれば、さきほどの林檎を手にしたサラとアルヴィンが執事を伴って現れた。 「お話はもうお済みですか? 林檎をお召しあがりになるかと思いまして」 「レディ・アークライト、それにアルヴィン。なんていいところに! ちょうど終わったところさ」  助かった、と言わんばかりの歓迎に若干引きつつも、サラは笑ってどうぞ、と皿をテーブルに置く。  切ったばかりの瑞々しい断面が、窓からの光を受けてつやつやと輝いていた。 「とっても美味しいですよ。アルヴィン様もすっかりお気に入りです」 「そうそう、ほら、クレイグも食べてみな。希少種なんだ」  土の具合か気候の影響か、アークライト男爵領の一地域でのみ育つ樹なのだという。  ほとんど領内で消費され、外に出回ることは滅多にない。 「香りもいいですよ。歯応えもあってジュースのように果汁がたっぷりですから、気を付けてくださいね」   勧められて口にすると、まさしくその通りで林檎というよりオレンジを食べているようだ。初めての食感にクレイグは素直に驚く。 「ほら、やっぱり叔父様もびっくりなさったでしょう、アルヴィン様?」  サラに耳打ちをされたアルヴィンは、目を丸くしたまま林檎を頬張る叔父を見て――初めて、小さく笑ったのだった。
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