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アークライト家の家長夫妻には小さい子どももいて、面倒を見る手も多い。
サラも馴染みのあるそちらに、二人で世話になったほうが安心かもしれない。
「……考えておく」
「そうしてくれ。あ、そうだ」
馬車の上り台に掛けていた片方の足をふいに降ろすと、ルイスはクレイグへ近寄り耳打ちをした。
「祝賀会のことだが、レディ・アークライトのドレスはお前から贈れよ。さんざん世話になっているんだ、給料の他にそれくらいして恩を返せ」
「は?」
「アークライト家には『クレイグが用意する』と伝えてあるから。いいな」
予想外にもほどがあるルイスの指示への返事を探している間に、馬車は軽快に走り去っていった。
――ドレス?
防具の見立てなら自信はあるが、女性の正装など一つも分らない。
社交をする必要がある以上、そうとばかりも言っていられないのは百も承知だが、これまでに機会もなかったのだ。
「クレイグ様?」
馬車はとっくに消え、サラが覗き込むと、初めて会ったときよりもっと難しい顔をしていた。
しかし怯むようなことはなく、サラは普通に話しかける。
「クレイグ様、戻りませんか」
「そうだな……」
上の空で返事をして、改めて目の前のサラの姿がクレイグの目に映った。
……ゆったりとまとめた柔らかそうな黒髪で、肌の色は自分よりずっと白い。明るいブラウンの瞳は、ここに来た当初よりも笑みの形を作ることが多くなった。
濃い色の服ばかりを着ているのは、まだ心が喪に服しているのだろう。
似合うとしても、華やかな色は受け取らないかもしれない。
それに、彼女の雰囲気からすると赤や黄などよりは――
「……青か」
「なにがです?」
「っ!?」
きょとりと瞬きを止めたサラに覗き込まれるようにして、至近距離で目が合う。
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