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7 月のかけらは
その晩の就寝の頃。いつものようにアルヴィンの部屋へ行こうと廊下に出ると、ちょうど執事のトマスがこちらに向かってくるところだった。
「クレイグ様、よいところに」
「どうした、トマス」
「アルヴィン様とサラ様は、庭にいらっしゃいます」
トマスはクレイグが思ってもみなかったことを告げた。
普段なら寝台に入り、そろそろ明かりも消そうかという時間のことである。
しかし執事の表情はあくまでにこやかだった。
「庭? こんな時間にか」
「はい。サラ様が本を読み聞かせていらしたのですが、その途中でアルヴィン様ご本人が、どうしても池に行きたいと」
ちょうど池、というか湖が舞台の話だったそうだ。
サラの袖を引き、窓の外と童話の本の挿絵を指して行きたいと伝えたのだそうです、と執事は嬉しそうに説明する。
アルヴィンからの意思表示を歓迎しているのがよく分かる。
サラもそれは同様で、だからこそ、この時間の外出にも頷いたのだろう。
――それにしても、池か。
気がかりか、こだわりがあるのは確かだと、クレイグは見えない甥の心を推し量る。
庭の池には、ここ数日でもうすっかり厚い氷が張っている。
落ちる心配はなくなったが、長い時間いられるような気温でもない。
「キッチンに温かい飲み物を用意しておくように伝えてあります。しっかりと外套もお召しになって先ほど行かれました。それをご報告しようとこちらに」
「分かった。二人には誰かついていったのだろうな」
頷く執事に背を向けて一度部屋へ戻り、自分も厚い上着を羽織って外に出る。
墨を流したような夜空には星が瞬き、新月へと向かう細い月が南西の空低くに見えていた。
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