7 月のかけらは

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 親指と人差し指に挟まれた二センチほどの細く薄い石英のようなそれが、空に翳される。  透き通る結晶は星の光を通し、本当に月から零れたかのようにきらりと反射した。 「綺麗でしょう。はい、お口を開けてくださいませ」  あーん、と言われるがままアルヴィンは口を開くと、サラは舌の上に「かけら」をそっと乗せた。  驚いた表情のアルヴィンが、ゆっくりと口を閉じる。  そして、ころりと「月のかけら」を口の中で転がした。 「……!」 「甘いでしょう?」  だから一つだけですよ、と人差し指を立てて見せるサラに、アルヴィンは口を押さえながらこくこくと何度も頷いた。 「……飴?」  小さくぼそりと呟いたクレイグに、サラはウインクをしてみせる。  アルヴィンには聞こえなかったようで、子どもらしい表情で口の中の甘い「月のかけら」を楽しんでいた。 『さっきの本のとおり』と言うからには、そういった内容のおとぎ話でも読み聞かせていたのだろう。  童話よりも冒険ものや英雄譚を好んだクレイグには覚えのない物語だが、書庫にある幼児向けの本の中にあったのかもしれない。  そう思っていると、隣にいたサラが飴を舐め終わったらしいアルヴィンの正面に、す、と屈んだ。 「アルヴィン様。悲しくていいのですよ」  膝を折り、背の高さを合わせたサラの柔らかい声に、甘さに緩んだ頬がぴくりと強張る。 「誰だって家族や好きな人が亡くなったら悲しいし、寂しいのです。お父様やお母様に会いたいって泣いていいのです」 「……」 「私もそうですし、クレイグ叔父様だって同じですよ」  サラの言葉を確かめるように、アルヴィンの眼差しがクレイグに刺さる。  ランタンの光を反射するその瞳を、クレイグはまっすぐに受け止めた。 「……おじさま、も、かなしい?」  躊躇うように開いた口から少し掠れた言葉が落ちる。  アルヴィンの、声だ。
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