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立ち上がったサラに代わって、クレイグが甥の前にしゃがんで視線を合わせた。
「ああ。悲しいな」
「つよい、ぐんじんさんなのに?」
「軍人だって王様だって、悲しい時は悲しいんだ。おかしいことじゃない」
「でも、ぼ……ぼくのせいで、死んじゃったんだ、よ」
絞り出すようなアルヴィンの言葉にクレイグは胸を抉られた。
馬車の事故の時、義姉はアルヴィンを抱いた状態で亡くなっているのが発見された。
気を失っていて、目覚めた後も動揺が残るアルヴィンからは警察も深く事情を聞くことはせず、また事故の詳細を幼い子どもに説明することもしなかった。
事故その時のことを覚えていると――自分のせいで亡くなった、と考えているとは思わなかった。
「それは違う、アルヴィン」
「でも」
「誰かのせいじゃない、事故のせいだ」
「だって、ジェフだって」
「ジェフの怪我はもう大分よくなった。馬の世話だって元通りしているだろう」
まだ疑念の残る声に、クレイグは何度でも繰り返す。
不幸の全てが誰かのせいで起こるわけではない。ぶつける相手のいない憤りは戦地でも何度も味わった虚しさであり、そして現実だった。
「おこって……ないの?」
「怒るとしたら、あの見えない轍を崖の近くに作った地面にだな。それと、ちょうど真下にあった岩か」
「……みんなも?」
「当然だ。誰にだって何にだって誓って言える。お前は悪くない。絶対にだ」
当主を死なせ、同僚に大怪我を負わせた自分のことを、使用人達も皆怒って恨んでいる。
事故は自分が引き起こしたとまで思い込み、全てから距離を取らざるを得ないほどに自分を追い詰めていた。
――クレイグも含め、アルヴィンは怖かったのだ。
自分の犯した罪は償えるようなものではないから。
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