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その点、サラは外から来た人だった。それまで両親と交流がなく、使用人とも初対面のサラだけは、自分の近くにいても怖くなかった。
サラが普通に話すから、クレイグとの距離も徐々に詰められていった。
それに、初めて会った時に掛けられた言葉はアルヴィンの心をなぞるもので、サラになら分かってもらえるような気がしたのだった。
そのサラが、「叔父様も悲しい」のだと言う。怒ってなどいないと。
悲しいだけなのだと言う――アルヴィンと同じに。
「アルヴィン……気付いてやれなくて、悪かった」
自分のせいではないと再度強く断言されて、アルヴィンの瞳から涙が次々とあふれる。
体の横で固く握りしめられていた両手ごと、クレイグはその小さな体をしっかりと抱きしめた。
アルヴィンは今まで溜め込んでいたものを全部出すように、両親を呼びながら泣き声を上げる。
凍った池の上を走る冷たい風からも夜の闇からも守るように、クレイグはアルヴィンが泣き止むまでずっと腕の中に抱えていた。
「――っくしゅっ!」
穏やかな表情でクレイグ達を見守っていたサラがくしゃみを一つした。
よく見ればアルヴィンはしっかりと着こんでいるが、サラは薄い部屋着の上に外套を羽織っただけのようだった。
「し、失礼を」
「風邪を引く前に戻るぞ」
無作法を詫びるサラの言葉を遮る勢いで返すと、クレイグはアルヴィンをそのまま片腕で抱き上げる。
「わぁっ?」
「このほうが早い」
一刻も早く、暖かい室内へ戻る必要があると判断したのだ。
涙の残る目をぱちくりとさせたアルヴィンだが、高くなった目線でさらに上を見渡し、細い月に視線を止めた。
サラがやったように自分も両方の腕を伸ばし、何かを捕まえた手をクレイグの口元へと持ってくる。
「んん? あ、ああ」
ぐいぐいと唇に握りこぶしを当てられて促されるまま口を開けると、ぽい、と入れる真似をする。
当然、なにも入ってはいないのだが、斜め下からのサラの目が強く訴えていることは、クレイグにも理解できた。
「……甘いな」
飴を舐めるふりをしてそう言えば、満足そうに眦を細めたアルヴィンがクレイグの首元にぎゅっと腕を回す。
その体温と腕にかかる重さを噛みしめながら、屋敷へと戻ったのだった。
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