8 告げることは

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 贅沢ともいえないちょっとした日常の楽しみも知らない彼女に、自分だったらどうやってそれを与えられただろう。  クレイグは頭を巡らせたが、買って渡すほかはなにも思いつかなかった。 「私は旦那様に、お世話ばかりかけました」 「世話と思っていなかったと思うが」 「そうだといいのですが……。それで、私にはとても印象深い出来事なのです。なので、アルヴィン様もあの池に思い入れがあるようですから、」  特別な場所で特別な事をしたら、なにか変わるかもしれないと思った、とサラは言う。  とはいえ今夜行くつもりはなく、まずは物語を聞かせ、折を見て誘おうと考えていたそうだ。  自分から、しかも今行きたい、と言われるとは想像していなかったため、慌ててキッチンにいって飴を一つ砕いて持ったのだと。  食事を摂るようになったアルヴィンだが、まだ食欲が完全に戻ったわけではなく量は食べられていない。  以前は好んだ菓子類も、用意してもほとんど口にしなかった。そのためパントリーにはたくさんの菓子が残っていた。 「あの飴は、見つからないようにしておかなくてはいけませんね」 「希少なはずの『月のかけら』が、家に山盛りあったらまずいだろうな」  そう言って、二人で顔を見合わせて笑った。  薄明りの部屋で、パチリと暖炉の火が爆ぜる音が響く。ゆらりと揺れる炎は、二人の間に踊るような影をつくった。  小さい声での会話のために、二人の距離は近い。  伏せた睫毛の一本まで見えるほどに――頭を軽く振ると、クレイグは次の話を切り出した。 「もうひとつ教えてほしい。ここに来た最初の日にアルヴィンに会った時、君はあの子に何と言ったんだ?」  ずっと疑問だったことをそのまま尋ねた。  アルヴィンは、最初サラのことも無視していた。それが、途中で急に態度が変わったのにはなにか――サラが話しかけた何かがアルヴィンの心に触れたのに違いない。  アルヴィンが、事故の責任を重く感じていたことは分かった。  でも、それが池に拘る理由とは考えにくい。気がかりはこのまま一気に解消したかった。
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