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9 宝物は
翌日。まだ昨晩の動揺が残るサラが寝不足の頭を軽く振ってアルヴィンのもとへ訪れると、部屋の主は既に起きて待っていた。
子守を始めてから初めてのことに、サラは少なからず驚く。
カーテンを開けるサラの姿を認めるなり、寝台から飛び降りて小走りに近寄ってくるのも初めてだ。
「おはようございます、アルヴィン様。昨日はお休みが遅くなりましたから、起きていらっしゃるとは思いませんでした」
「びっくりした?」
「ええ、とっても」
サラの返事に満足して、はにかんだ笑顔を見せるアルヴィン。
はっきりとした声と明るい日の下で見るその表情に、サラの顔も自然とほころんだ。
と、アルヴィンは急にサラの袖口をぎゅっと掴んで、苦しそうに眉を寄せる。
「アルヴィン様?」
「……あのね、おねがいがあるの」
思いつめた様子の「おねがい」を、サラは一言も聞き漏らすまいと耳を傾けた。
――サラとクレイグに、一緒に庭に来て欲しい。
アルヴィンの願いは午前中すぐに叶えられた。
昨夜と同じようにしっかりと外套を着込み、なぜかアルヴィンは、球根を植える時に使うような小さいシャベルも持って三人で池へと向かって歩く。
昨夜のこともあって、サラはクレイグの顔をまともに見られなかったが、二人の間には常にアルヴィンがおり、昨夜の返事を聞かれはしなかった……とはいえ、クレイグからの視線は常に感じたが。
「さあ着いたぞ、アルヴィン……?」
二人を池の端に置いて、アルヴィンは凍った水面にためらいもせず足を乗せる。
そしてそのまま、池の中心にある中島のほうへと靴を滑らせながら進み始めた。
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