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「それは?」
「お父さまが、言ったんだ。たからものが埋まっているから、氷がはったら、いっしょにさがしにこようって」
そう言って、膝の上に置いた箱を開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。
手袋を脱ぎ捨てたアルヴィンが必死に開けようとするのを見て、クレイグは思い出した。
――兄が使っていた執務机。
その引き出しにしまわれていた、屋敷のどこの扉にも合わない細い鍵。
「アルヴィン。もしかしたら――」
涙の目を擦って土が付いた頬を赤くしたアルヴィンと、慣れない氷に足を取られるサラを両腕に支えて、大急ぎで池を渡り屋敷へと戻ったのだった。
外套を脱ぐ時間も惜しんで鍵を合わせてみると、それはまさしくぴたりと嵌った。
震える手で回すとカチリと音を立て、アルヴィンは息を止めて蓋を持ち上げる。
綿と薄紙に包まれて入っていたのは――生まれたばかりの赤子が着ける小さいミトン、手編みの靴下。
それと、折り畳んだ数枚の紙。守り袋。
「手紙……違うな、似顔絵か、これは」
そっと開いた紙を後ろから覗き込むと、数本の毛が生えたジャガイモのようなものに、目鼻とおぼしき点がついている。
ほかの紙も似たようなものだった。紙の裏側には几帳面な文字で日付などが記されていた。
「兄さんの字だ。『【父の顔】我が息子、アルヴィンは素晴らしい画家にさえなれるだろう』……こっちは義姉さんか」
「ぼくの、絵?」
「アルヴィン様が初めて描いた、お父様やお母様の絵ですね」
守り袋には柔らかな子どもの髪の毛が一房、入れられていた。
「宝物」が何なのか、誰がどう聞かせるよりも、間違いなく伝わっただろう。
執務室の床に座り込んだまま、アルヴィンは飽きることなくそれらを見続けていた。
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