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当初、義母を子守として働かせることに難色を示した息子達だが、喪の期間があけても気落ちしている姿に少しでも張り合いがでるなら、と渋々許可をくれたらしい。
……家同士の付き合いだけではなく、ルイスの内務補佐官としての立場をちらつかせたのではないかと、クレイグは勘ぐってしまうが。
自身に子はなく、子育ての経験のない未亡人に、アルヴィンの面倒が見られるかは分からない。
それでも、修道院の慰問にも通い、子どもの扱いは慣れていると書かれたルイスの文字に安堵を抱いたことは間違いがなかった。
これまでに来た子守りは、二、三十代の年齢の女性ばかりだった。
人生経験の豊かな女性ならば、アルヴィンの現状を変えることはできなくても、祖母のように見守ってくれるのではない だろうか、と一縷の期待が生まれる。
少なくとも、今までここに来た子守のように、拒絶以外に反応のないアルヴィンを持て余し、叱り飛ばしたりするようなことはないだろうと。
ついでに、自分のような軍人上がりの粗野な男でも、さして気にしないだろうと。
手書きの用紙でも繰り返される「くれぐれも粗相のないように」の注意書きにはご丁寧にアンダーラインまで引いてあって、クレイグは苦笑いを零す。
随分と信用がないようだが、家格は下でも年長者に礼を失する気持ちは無い。
隣の隊にいたスタンリーとは直接の面識こそないが、貴族にしては珍しく気取りのない実直な性格で、平民の志願兵からも慕われるような人物だったと聞いている。
その彼の義母でもあるのだ。
膝か腰、もしかしたら両方悪いかもしれない前男爵未亡人を迎えるにあたって、階段の上り下りをしなくて済むように個室は一階の客間に。
さらに、冬が厳しいこの地でも過ごしやすいように暖炉の燃料もたっぷりと用意した。
――そして迎えた当日、馬車を降りた人物にクレイグは自分の目を疑うことになる。
「シャノーワー卿よりご紹介いただきました、サラ・アークライトと申します。初めまして、ブレントモア伯爵」
前男爵未亡人は、膝が悪く、老眼鏡をかけた白髪の、品の良い女性のはずだった。
目の前で淑やかな礼を取る女性は、艶やかな黒髪を綺麗に結い上げ、その緑を帯びたライトブラウンの瞳には無粋な丸ガラスもかかっていない。
白い肌にはシミひとつなく……どう見ても、三十歳の自分よりずっと歳下にしか見えなかった。
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