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予想外だったのは、一緒に、と誘われてアルヴィンも喜んでついて行ったことだが。
二人のいなくなった屋敷は火が消えたように静かで寒々しく、使用人達でさえその違和感に戸惑うほどだった。
「まあ、ほら。それでも久しぶりに会えるんだし、機嫌直せって」
「別に怒っていないだろうが」
「その顔と声でか」
「生まれつきだ」
馬車の中でも軽口をぶつけ合う。
不機嫌そうにしながらも以前みたいに黙り込まないのは、ルイスを拒否していない証拠であり、以前とは変わった点でもある。
これもサラ・アークライトという人物による影響の一つなのだろう。
「予想以上だよなあ……」
「何がだ?」
「いーや、なんでも。あ、着いたな」
わざとらしく話題を逸らされたが、構うのも面倒になったクレイグは黙って馬車を降りた。
「そういえば、ドレスは贈ったんだな」
「ああ」
手広く商売をしているルイスの叔母を通して注文したドレスが仕立て上がったのは、サラ達が男爵家に行ってからだった。
サイズなどの細かい調整は、アークライト家の奥方達が上手く取り計ってくれたようだ。
サラからの礼状も届いたが、クレイグはまだ着たところを見ていない。
果たして今日、贈ったドレスを身につけているだろうか。
柄にもなく緊張している自分に気付いてクレイグは息を吐く。
「……まいったな」
「なに?」
「いや。行くぞ、ほら」
拝謁よりも、初めて伯爵家当主として登城することよりも、気がかりは別のこと。
以前は社交の全てにおいてどうでもいいと思っていたのだから比べるものでもないが――変わりように我ながら驚き、そんな自分も悪くないと思っていることにまた、何とも言えないむず痒さを感じたのだった。
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